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書評 2016.11

いたいコンサル すごいコンサル

 コンサルティング業界は1980年代からほぼ10年単位で様相が変わり,第4世代に当たる今は大衆化の時代だと著者は俯瞰する。クライアント先のCEOにモノを言える一流がいる一方で,クライアント先の部課長の下請けに留まる高給人材派遣と揶揄される人々もいて,個体差が大きいと指摘している。では,起用する側は優秀なコンサルタントをどう見抜けばいいのか。業界に詳しい,利益に結びつく提案ができる,アクションプランがすぐ出せる等のポイントを含め,本書はシンプルな10の質問を手がかりに本質論に迫っている。例えば,ウケ狙いの面白い話より,正しいアクションを促す愚直な提言をしてくれるかどうかは注目点の1つだとされる。また,経験豊富で,日頃から課題意識を持ち,要点整理のできている“すごいコンサル”は,プロジェクト開始前に7割方の正解が描けているのに対し,“いたいコンサル”は,分析ばかりに時間をかけ,作業工程を語るのみで,あげくに実現不能な提案をしがちだと明かす。コンサル業界の内幕もうかがえる興味深い1冊。

●著者:長谷部智也  ●発行:日本経済新聞出版社/2016年9月21日
●体裁:四六版/264頁  ●定価:1,700円(税別)

会議のマネジメント

 本書の基本スタンスは,コミュニケーション学や心理学を扱うアカデミック寄りの視点にあり,少なくとも会議運営のスキルを解説したビジネス書ではなさそうだ。「場のコントール」という着眼に沿って,「空間」「時間」「情報」の3つの構成要素に切り分け,マネジメントの余地を探る科学的論考といえるだろう。「空間」では,部屋の広さや机の配置,視線の動きを考察。「時間」では,会議のタイムテーブルのほか,司会者・参加者の仕草,立ち位置なども検証の材料に加えている。「情報」では,事実伝達や情報共有機能のほか,語り口,あるいは“あえて情報を与えない行為”も視野に入れ,効果や影響度を深掘りしている。また,ワークショップ型研修でのファシリテーターの挙動を動画撮影し,“空気の動かし方”を分析するような実験的な取り組みにも挑んでいる。書名に立ち返れば,シナリオ通りの会議運営にこだわらず,想定外の出来事も「場」の要素として受け入れ(むしろ楽しみ),迷いながら進行させていく価値の訴求だと読み取れる。

●著者:加藤文俊  ●発行:中央公論新社/2016年9月25日
●体裁:新書版/195頁  ●定価:760円(税別)

たった5つでモチベがあがる技術

 モチベーションには,組織から一方的に与えられる環境・条件など変えられない要素と,自分の意識・行動次第で変えられる要素があるという。このうち,自分でコントロールできる要素を整理し,ベストコンディションを維持するためのヒントを本書は提供してくれる。その要素とは,@身体の状態,Aアウトカム(ありたい姿),Bミッション,C柔軟性,D刺激,の5つ。@では,脳は身体とつながっているので,運動などで心の状態は変わると解説。Aでは,自分を主語にしてありたい姿を肯定的に描いてみると,明るいイメージに導かれて前向きな行動が発揮できると述べる。Bでは,自分の存在価値まで掘り下げ,ミッションを見つける方法をガイド。Cでは,立場,目線,時間軸をズラしてモノの見方を変えるリフレーミングの手法を紹介。Dでは,習慣や持ち物を変えてみてはどうかと提案する。これら第1章の知識編に続けて,第2章では,30のQ&A事例を挙げ,閉塞感から脱出する具体策を綴っている。有益な知恵とともに元気をもらえそうな良書だ。

●著者:野本明日香  ●発行:日経BP社/2016年9月27日
●体裁:四六版/184頁  ●定価:1,400円(税別)

人事評価はもういらない

 人事の分野に長く・深く携わっている人ほど“まさか”と思うかもしれないが,実は今「人事評価廃止」のムーブメントが起きているという。GEやマイクロソフトといった米国企業ではパフォーマンスマネジメントの最適化を追究した結果,人事評価の廃止に行き着いたと本書は報告している。その背景には,ビジネスのスピードや従業員の世代感覚の変化があり,1年(半年)の区切りで過去を振り返っていたのでは遅く,目標設定もフィードバックもリアルタイム・多頻度に繰り返すほうが現実的だとの判断があったと著者は読み解く。同時に,個々のメンバーの意欲とチームの力を引き出すにはマネジャーの働きかけにも大きな役割変化があるはずだとみて,従来型の「タスク管理」から,個々の強みを活かした成長志向の「ピープルマネジメント」への転換を予見している。日本企業においても,評価シートの作成や評価面談が半期に1度の形骸化したイベントに陥っているとすれば,まもなく大変革が起こるのではないかと,衝撃的な示唆を語っている。

●著者:松丘啓司  ●発行:ファーストプレス/2016年10月27日
●体裁:四六版/159頁  ●定価:1,500円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki