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書評 2016.12

経営改革は“人事”からはじめなさい

 コンサルタントの立場で経営者と接する著者は,人材定着率の悪化,職場モラルの低下,人材不足などでじわじわ経営が圧迫される「浸食型経営難」のリスクを指摘している。経営者の悩みは「いい人を採りたい」「必要ならもっと募集広告を出すし,賃金アップも考える」といったレベルであり,肝心の人事担当者は給与計算など事務処理に追われているケースが多いと報告している。このような場合,外部コンサルタントが対症療法的な施策を示しても効果は限られるとし,経営ビジョンから作り込んでいく抜本的な再建策を提案している。現状分析を実施し,経営ビジョンを策定し,人事戦略に落とし込み,そのうえで人事制度や教育体系を機能させていく各社オリジナルのプロセスが重要だと力説。等級・評価・賃金という人事制度の3本柱が「人づくり」にリンクする設計を概説するとともに,劇的に変わった複数の企業事例を紹介している。1冊読み終える頃には読者自身が「人事の仕事は人づくりに尽きる」と腹落ちしているに違いない。

●著者:小野耕司  ●発行:幻冬舎メディアコンサルティング/2016年10月28日
●体裁:新書版/216頁  ●定価:800円(税別)

採るべき人 採ってはいけない人

 アセスメント事業を長く手がけ,行動分析と人材評価のプロを自負する著者は,大事なところだけを観て,どうでもいいところは観ないという徹底した客観基準による人の見抜き方を本書に公開している。人材採用の重要な着眼点は「他者と向き合う力」と「考える力(概念化能力)」だと述べ,グループワークの場で露呈する本物とニセモノの差を紹介している。アセスメント対象者らに課題を渡し討議を任せてみると,まとめ役の演技にしか関心のない仕切り屋,時間配分や進め方にこだわる型依存,立派な発言をする自分を見せたいだけのナルシストほか,ニセモノは次々に暴かれるという。さらに課題に向き合い考え抜いた末に概念化に至った意見か,借り物の知識を見栄えのする言い回しに加工しただけの発言かも様子を観察していれば分かるといい,プロの眼力には重ねて驚かされる。今までスペックの高さや面接時の好印象で人を採用したものの後悔を繰り返すばかりだという皆様には,問題点が氷解すると同時に,底知れぬショックを受けそうな内容だ。

●著者:奥山典昭  ●発行:秀和システム/2016年11月1日
●体裁:四六版/240頁  ●定価:1,400円(税別)

決定版 出世のすすめ

 東レ在籍時代の著者の体験をベースに出世を目指す人へのアドバイスを綴った1冊。もっと面白い仕事がしたい,さらに成長したい,自由度を高めたいという自然な欲求を満たそうとするならぜひ出世を目指すべきだと読者の背中を押している。そもそも出世は,人の能力差ではなく,努力・まめさ・人付き合いなどで能力を開花させたかどうかの違いに過ぎないと持論を展開。普通にしていたらたまたま出世したなどという事例はなく,日頃から準備を怠らない人にこそ偶然の機会は訪れると述べ,当事者の自覚を迫っている。会社は泥臭いところだと腹を括り,中期計画を立てて実行と検証を繰り返し,部下力を磨き,好機を読めと,優しい語り口にして実は骨太なメッセージを託す。「出世は技術点(業務遂行能力)と芸術点(人としての魅力)だ」と言い当てるとともに,役員までは実力・実績・人柄の競争,その先の座は時の運だと潔さもにじませている。著者の半生や時々の職場の風景を想像しながら,組織力学の輪郭をつかむような読み方をしても楽しい。

●著者:佐々木常夫  ●発行:KADOKAWA/2016年11月10日
●体裁:新書版/203頁  ●定価:800円(税別)

図解 働き方

 計23話のトピックから構成された自叙伝かつ勤労哲学の入門書だ。「働く理由」が揺らぐ時代だからこそ“楽して儲ける”風潮を戒め,「一生懸命働く」ことの価値を訴求したいと立場を鮮明にしている。仮に遊んで暮らせる環境だったら,人は成長感も生きがいも見出せず性根が腐るのではないかと危惧する。対して,愚直に,真面目に,地道に,誠実に働いていれば過剰な欲からは解放され,仕事そのものが面白くなっていくはずだと語る。また,どん底(挫折・苦難・逆境)があるからこそ仕事に打ち込む覚悟ができ,ゆえに見事な開花に至るという因果を説き,順境なら「よし」,逆境なら「なおよし」とまとめている。実際,製品開発やそれ以前の実験の過程では,著者自身,幾度となく失敗を経験し,そのたび何かしらのひらめきを得て打開策を見つけている。それは製品を抱いて寝るほどの仕事への執着であり,天職を形成していくプロセスとも読み取れる。話の1つひとつはさっと読める文字量であり,キャリア研修の副読本などに取り入れてもよさそうだ。

●著者:稲盛和夫  ●発行:三笠書房/2016年11月20日
●体裁:A5版/135頁  ●定価:1,200円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki