*

HRM Magazine

人事担当者のためのウェブマガジン | Human Resource Management Magazine
HOME
 HR BOOKs
  

書評 2018.06

定年後不安

 元銀行員の著者は,人事分野で転職経験を重ねて後,自らは57歳でフリーの立場で活躍の場を切り開いている。人生100年時代を意識すると,定年後の35年〜40年という時間は全く「余生」にはあたらないとして,いかに有意義に生きるかを考察している。定年後の3大不安(カネ・孤独・健康)は,85歳まで現役で働くことで一気に解消するとも語り,無理なく楽しく生き抜くための3段階「3毛作=トリプルキャリア」を提案する。具体的には,60歳までは会社員(雇われて働く),60歳以降は起業(ただし,雇わず・雇われず低リスクで),75歳以上は好きな時間,好きな場所,好きな仲間とだけで働く,という3つのステップを展望。うまくスタートを切るためには50代のうちにプロとして売れるコンテンツを形成し,磨きをかける必要があると指摘している。主に個人向けのキャリア戦略論ながら,話は時間活用術やITスキル,コミュニケーション知識,学習活動,健康管理等に及び“生活の領域”に踏み込んで,迷える中高年を勇気づけてくれている。

●著者:大杉 潤  ●発行:KADOKAWA/2018年4月10日
●体裁:新書版/245頁  ●定価:820円(税別)

ある日突然AIがあなたの会社に

 進化スピードが著しいとはいえ,現実的にAIには不得意なこともあるとITコンサルタントの著者は解説する。AIといえども人間の指示があって動く機械であり,(現在のところは)勝手に企画・行動する力はないので過度に恐れる必要はないと語っている。目下のAIブームは技術的にアレができるコレができると話題になっている段階で,ビジネスの実務プロセスに取り込んでいくのはこれからだと見通しを示し,マネジャー(人間)にとっての有能なアシスタントやアドバイザーと位置づけて活用してはどうかと提案している。また,人間とAIの協業を考えるとき,AIティーチャーが何を教え込むかがポイントだとされ,それ次第でアウトプットにも偏り(性格・趣味)が反映されるという指摘も興味深い。さらに,AIには親しみやすく安心できる会話や,自然環境に身を置く快適感など人間的な要素は理解が難しく,「人間の仕事を奪う」との懸念には楽観も悲観もしないと述べる。数十年後の社会を空想し「残る人間らしい仕事」を模索する記述も楽しく読めそう。

●著者:細川義洋  ●発行:マイナビ出版/2018年4月30日
●体裁:新書版/208頁  ●定価:850円(税別)

1on1マネジメント

 書名から面談ノウハウを想像されるかもしれないが,本書のキモはマネジャーのための「ピープルマネジメント」にある。メンバー個々の能力を引き出しパフォーマンスを高めていく支援的な手法を解説し,1on1はその手段だと位置づけている。ただ,ピープルマネジメントが支援的なスタンスだといっても単に“優しい上司”とは異なるとの指摘は示唆的だ。例えば,「寄り添おうとしなくてもよい」「理解はしても賛同や共感まではしない」と語り,いいマネジャーのスキルを発揮すべきだが,いい人である必要はないと割り切っている。その真意は,上位者であるマネジャーの役割を果たすにはメンバーとの適切な距離感をはっきりさせたほうがいいとの認識にある。1on1 での支援要素を4分類(メンバーの理解・リフレクションの支援・目標支援・キャリア開発支援)で示したうえで,これからの時代を担うマネジャーに求められる計35の要点を整理。旧来型の部下指導・進捗管理に代わる新しいマネジメントモデルを鮮明にしたインパクト十分な内容だ。

●著者:松丘啓司  ●発行:ファーストプレス/2018年5月10日
●体裁:四六版/180頁  ●定価:1,500円(税別)

“社風”の正体

 「企業文化」を題材に硬軟自在に考察し,社内に正しく展開を図っていくためのヒントを探っている。企業文化は,経営戦略に沿ってハードインフラを有効に機能させる手段(ソフトパワー)として活用できるというのが本書の総括だが,そこに至るまでの揺り幅が広い。お堅くは,ビジョナリーカンパニーやエクセレントカンパニーでおなじみの先行研究からひもとき,IBM,HP,3Mといった各社の事例を紹介する。また,国民性との関連では“空気”に支配されがちな日本企業の弱点を指摘。対して,イノベーションを生み出す企業には,内外問わず情熱に根差した文化が見出せると語っている。国内地域の観点では,京都と名古屋に着目し,商人気質やものづくりへの影響を見つけ,さらに広島に飛んでマツダとカープの共通点に言及するなど,個人的な関心も垣間見せている。不祥事とガバナンスでは,違法残業の真因,ブラック企業の犯罪性,および大企業病の構造にも踏み込む。巻末に挙げられた44項目のチェックリストから自社の社風を探る試みもお勧め。

●著者:植村修一  ●発行:日本経済新聞出版社/2018年5月10日
●体裁:新書版/253頁  ●定価:850円(税別)

HRM Magazine.

【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki