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書評 2018.07

なぜ,あのリーダーはチームを本気にさせるのか?

 組織開発コンサルタントの著者は,これからの時代に求められるのはファシリテーター型リーダーシップではないかと確信し,「ファシリーダーシップ」という造語を言い当てている。リーダーシップの全体像を,耳(聴く),目(観る),口(問う・語る),手(つなぐ),足(踏み込む),頭(考える)の6つの機能に分解整理し,リーダーが担うべき勘所を詳述。「1on1」をはじめとする最新の手法を含めて手堅く汎用的な理論をカバーする一方,身近な比喩と具体的な事例を盛り込み,終始かみ砕いた記述を貫いている。さらに,相づちのヒトコトを九九(81個)で並べたり,「愛を伝える5つの言語」を紹介したり,褒めフレーズを「あ〜わ」のカルタでツール化したりするなど計20に及ぶ小咄の挿入も気が利いている。心を総動員して積極的に耳を傾け,ときにダメ出しのフィードバックをためらわず,部下の心に火をともすノウハウを集大成した密度の濃い内容で,不安定化・複雑化の増す時代を迎え撃つリーダーの皆さんにはありがたい教科書の登場だ。

●著者:広江朋紀  ●発行:同文舘出版/2018年6月3日
●体裁:四六版/247頁  ●定価:1,500円(税別)

なぜ,御社は若手が辞めるのか

 優秀な若手の離職は企業経営に大きな打撃になると危惧する著者は,まず「辞めた人の本音」を独自のインタビューで明らかにし,12の理由に整理している。そこで見出された,労働時間・人間関係・待遇・成長性などの諸要因のうち複数が重なると退職の可能性が高まると指摘する。一方で,「転職者の本音」を聞き出し,こちらは「やりたいことができる」「能力スキルを活かせる」といったポジティブな声が並ぶことから,退職理由との違いを分析している。さらに,「(離職を考えたが)辞めなかった人」の本音も探り,引き留め策のヒントを模索。「働きがいがある」「会社の姿勢・方針に共感している」「周囲に相談する人がいる」の3大要素を抽出し,企業事例を含めた12項目に及ぶリテンションポイントを解説している。もっとも,安定雇用にあぐらをかき,成長・貢献意識を失った人にまでリテンションの対象とするのはマイナスだとも述べ,健全な新陳代謝までは否定しない立場を言い添えている。人事にとっては共感余地の大きい論考といえそう。

●著者:山本 寛  ●発行:日本経済新聞出版社/2018年6月8日
●体裁:新書版/229頁  ●定価:850円(税別)

人事こそ最強の経営戦略

 グローバル人事の推進を多角的に考察し,ノウハウを凝縮した1冊。200社を超える日本企業でグローバル人事の導入に関わってきたという著者のコンサルタント経験と知識はさすがに厚い。俯瞰すれば,@人材の多様性,A人材需給のグローバル化,B人材の流動化,という3つの変化に対応すべく,@経営と人事の一体化,A計画的人材育成,B組織開発・組織活性化,という3つの課題に取り組むべきだと解釈できる。象徴的な方針に落とし込めば,@結果人事から計画人事へ,A主観人事から客観人事へ,B密室人事から透明人事へ,というマネジメントポイントに集約でき,各社の事情はあっても,優先順位を決めて実行に移していく段階だと示唆している。主テーマはグローバル人事とはいえ,働き方改革,モチベーション,HRBP,ノーレイティング,1on1,など多くの項目が盛り込まれ,かつ“3つのポイント”でヒントを示す手腕に圧倒される。2社(パナソニックグループ/ジョンソン・エンド・ジョンソン)の人事担当者へのインタビューも読みどころだ。

●著者:南 和気  ●発行:かんき出版/2018年6月11日
●体裁:四六版/319頁  ●定価:1,700円(税別)

若者わからん!

 「人口減少」と「ミレニアル世代」の2つのキーワードを手がかりに,採用と育成の有効策を探った1冊。消費行動の観点から長く“若者”を研究対象としてきた著者にとっても,今は向き合い方が質的に変化する転機だと認識されている。一概に括れないとしつつも,あえてミレニアル世代の特徴整理を試み,外面を協調的に取り繕うスキルに長け,内面は個人主義(利己主義)を極める傾向があると分析。典型的かつ極端な例を挙げて「肩書きのアピールだけがうまい嘘つき」とも表現している。ただ,人手不足が明らかな今後は,彼らをうまく取り込んでいくしかなく,上司・先輩たちには「否定しない」「共感を大事に」と付き合い方のポイントを諭す。また企業が取るべき若者対策では,柔軟な勤務制度や一定の権限委譲が有効だと述べ,さらに社風ブランディングやリファラル(クチコミ)採用の推進を提案している。従順で素直な世代だとは思うが,何となく暖簾に腕押しで日頃から手応えのズレを感じるという皆さんにとっては合点のいく解説となるはずだ。

●著者:原田曜平  ●発行:ワニブックス/2018年6月25日
●体裁:新書版/287頁  ●定価:880円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki