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書評 2020.08

カイシャインの心得

 銀行出身・IT企業副社長・アメリカ法人社長というと隙なくビジネスを攻めまくっているような先入観を抱いてしまうが,本書からうかがえる著者のキャラクターはほぼ真逆だ。人事部に「感動課」を創設し,「育自分休暇」を認め,「部長制」を廃止し,「100人100通りの働き方」という柔軟な職場を構築する“中の人”だ。“熱血”とは正反対のユルさをにじませ,若者の悩みに回答していくスタイルで,多面的に働き方のアドバイスを綴っている。例えば,「やりたいことが見つからない」のなら「できること」と「やるべきこと」と「ありがとうと言われること」の接点を探してはどうかと誘う。「好きなことは仕事になるか」「会社のカルチャーに馴染めない」「この会社にいていいのかな」といったお悩みには,“無理しなくていい”という姿勢を伝える。その根底には,「苦労」や「我慢」が今後の時代には無意味・非常識になっていくとの認識がある。標準語を基調としながらホンネに近づくと関西弁をのぞかせるなど,内容・文体とも独特で楽しい。

●著者:山田 理  ●発行:大和書房/2020年6月20日
●体裁:四六版/232頁  ●定価:1,500円(税別)

コロナショックと昭和おじさん社会

 あえて書名の解釈を試みれば,「昭和の社会システムのままコロナショックに見舞われた今,矛盾・理不尽が一気に表面化しているのではないかという仮説と考察」となるだろう(ダメなおじさんを茶化すような内容ではない)。その矛盾・理不尽とは主に,雇用・格差・福祉の3点に大別される。男性正社員が大黒柱で,腰掛けOLが主婦となり,子供2人をもうけて4人家族という昭和の中流世帯を標準とみなしたまま,バブル崩壊以降,社会構造が激変したにもかかわらず,セーフティネットの仕組みを変えてこなかったツケがいよいよ顕在化しているという指摘だ。コロナ禍でヘルパーの行動が制限されたり,雇い止めで困窮者が増加したりしても,頼るべき福祉は依然として「家族による支え」を前提としている矛盾。すでに家族のカタチが変質しているので介護も困窮者のケアも深刻な空白にさらされていると語る。ストレスの雨が降るとき,傘を差し出す人がいるだろうかと問い,助け合い,思いやる人々の動きを捉えてかすかな希望を見出そうとしている。

●著者:河合 薫 ●発行:日経BP/2020年6月25日
●体裁:新書版/175頁  ●定価:850円(税別)

課長の哲学

 「世界」「経営」「部下」「自分」「教養」の5章・計49のトピックを立て,思考のヒントを問いかける1冊。GAFAが飲み込む巨大ビジネスのスケール観や,シンギュラリティ以後にAIが支配する未来といった,かなりマクロな動きを捉えている。どの“お題”も「哲学してみよう」というワンフレーズの設問で締めくくり,断定的な正解をあえて隠した構成が面白い。職場に即したところでは,モンスター社員に「権利と義務」「自由と自己責任」を教えるのは誰かと問い,課長こそ「人材育成と道徳教育の要」ではないかと示唆する。また,AIによる医療サービスが進化し,人々が病気では死ななくなる「人生130歳時代」を迎えたとき,死因の1位は資金切れになると予測。そこからキャリアと資産の形成,さらには富の偏在というグローバルな社会課題までを考えさせる。知識・スキルの解説とは異なる,“煎じ詰めたつぶやき集”とでもいえそうな内容で,読む側も「徳」や「幸福」に思いをはせる余裕を確保したうえでの対峙が求められそう。

●著者:新井健一  ●発行:クロスメディア・パブリッシング/2020年7月1日
●体裁:四六版/240頁  ●定価:1,380円(税別)

ゴールドマン・サックス流 女性社員の育て方,教えます

 外資でキャリアを積み,多様な社員と関わってきた著者は,男女間に能力差はないが性差の特徴はあると述べ,女性の活躍に遅れる日本企業に向けてアドバイスを語っている。女性が控え目なのは世界に共通する傾向であり,昇進の打診に対して「私なんか」と遠慮されても,そこで話を打ち切らず,昇進して失敗しても安心して働き続けられる保障を説き,何度でもアプローチする努力を経営・人事に迫る。また,ライフイベントのタイミングで負荷の少ない仕事を担当させる配慮は間違いだと指摘し,「辞めたくない」レベルの魅力ある仕事の提供こそがM字カーブ解消に有効ではないかと提案。ダイバーシティを機能させる成功要因に,トップの決意,会社の制度,リーダーの意識を挙げ,メンター制度,スポンサー制度といった環境整備を実例で紹介する。一方で,女性自身には,黙々と仕事に没頭するだけではなく自ら手を挙げ発言する勇気を,上司には優秀な女性部下を上層部へアピールする姿勢を求める。体験ベース,実証済みゆえ,納得度は抜群だ。

●著者:キャシー松井  ●発行:中央公論新社/2020年7月10日
●体裁:新書版/189頁  ●定価:820円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki