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書評 2020.07

今日から使えるワークショップのアイデア帳

 研修講師・ファシリテーターとして活躍する4人の専門家の手によるワークショップガイド。「アイスブレイク」「ベーシック」「アドバンス」「リフレクション」の4 章・計30に及ぶアクティビティの手法が整理されている。各手法ともビジュアルにレイアウトされ,ワークの開始からインストラクションの進行管理,応用展開,クロージングまでのカギとなる場面ごとに典型的なセリフが例示されているので,社内講師の方でもメリハリのきいた教室運用ができそうだ。場を温めるところから,チームワークの形成,コミュニケーションの促進,課題解決,創造力発揮,リーダーシップ強化,論理的思考,傾聴,内省スキルの習得,といった研修目的に適合するワークショップを見つけられる構成もありがたい。さらに最終章では,16項目のQ&Aを載せ,会場設置やツール選択といった技術的な解説とともに,ファシリテーターの心得にも踏み込んでいる。研修辞典として手元に置いておき,取り急ぎ知りたい項目だけ,さっと開いて目を通す使い方もありだろう。

●著者:ワークショップ探検部  ●発行:翔泳社/2020年4月13日
●体裁:四六版/160頁  ●定価:1,800円(税別)

HRプロファイリング

 アセスメントツール『MARCO POLO』を開発・提供している著書らは,人材を決定づけるポイントが「ヒューマンコア」(幼少期に形成され個人の行動の原動力となる性格要素)にあると確信し,その把握と応用を本書に解説している。混同されがちなコンピテンシー人事については,ヒアリング時の定性・主観要素を排除できず,また,ハイパフォーマーに倣った行動をメンバーがとりえたとしても,個々の動機にズレがあるので「行動評価は良くても,業績は良くない」という矛盾が生じると警告。事実を可視化しただけでは「記録」に過ぎず「将来の活躍可能性」まで見極めるところに戦略性があると訴求する。加えて,「それが占いのレベルでは使い物にならない」と断じ,「予測妥当性」にこだわり本書の前半では,統計の科学(正確性・妥当性)にページを割いている。その意味で,人事担当者が身近に共感を伴って読めるのは,後半の事例紹介(採用・登用・適正配置・育成への展開)と思われる。科学的タレントマネジメントの理解が一歩進む1冊。

●著者:須古勝志/田路和也 ●発行:日経BP/2020年5月22日
●体裁:四六版/245頁  ●定価:1,900円(税別)

働き方5.0

 書名は,仮想空間と現実空間の融合を目指す「society5.0」(内閣府)に由来し,人事労務の「働き方」とはほぼ接点がない。著者の体験談を含むテクノロジー・産業史の俯瞰的記述に通底するテーマは「人間がやるべきことの本質は何か」という考察だ。人間がコンピューターを道具として活用しているつもりでも,今後コンピューターが「人間の動かし方」を学習し飲み込んでくる可能性は十分あるという前提で,人間的能力を鍛えよと訴える。管理業務もコンピューターが担う社会になればホワイトカラーの価値は下がり,搾取階層が減る分,ブルーカラーの豊かさと平等性は向上すると見通す。ただ,その段階で真に活躍する人材はデジタルへの置き換えができないクリエイティブ・クラス(創造的専門性を持った知的労働者)ではないかと想定し,他者にマネできない価値を検証するための5つの問いを公開している。知識量ではWikiに,人脈ではSNSに勝てない構造を説き,「意識(だけ)高い系」の浅い挙動を牽制するなど,“刺激”も提供してくれている。

●著者:落合陽一  ●発行:小学館/2020年6月8日
●体裁:新書版/207頁  ●定価:820円(税別)

オフサイトミーティング

 答えを求めず,お互いをさらけ出して共有する対話の場「オフサイトミーティング」の重要性および運用ノウハウを解説した良質なガイドブックだ。時間効率を最優先する会議ばかりではなく「本当は話したほうがいい重要なことを誰もが話せる場」も必要ではないかとミーティングの趣旨を強調。日頃の役職を外しフラットな立場で発言する機会を経て,社員が自分たちで方向性を作っていくことができれば,業務改善も進み業績も向上すると述べ,企業事例を挙げてエビデンスを示しいている。ミーティングの実際では,当たり障りのない「安定」,違いが明らかになる「混沌」,認め合う「相互理解」,共に考えながら動く「共創」という4段階のプロセスをたどるとされ,とりわけコーディネーターの役割を重視する。仕切りすぎず,誘導しすぎない原則を維持しつつ,“話が長い”“やたらネガティブ”“ロジカルに批判的”“沈黙ばかり”“対立激化”といった「困った人対策」「困ったシチュエーション対策」にも目配りできるよう,対処法を盛り込んでいる。

●著者:スコラ・コンサルト  ●発行:同文舘出版/2020年6月11日
●体裁:四六版/239頁  ●定価:1,600円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki