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書評 2021.02

これならわかるテレワークの導入実務と労務管理

 労務とテレワークに詳しい弁護士が詳述する在宅勤務制度の導入ガイド。最初に導入実務の全体像を示したうえで,推進メンバーの人選,基本方針の策定以下,ステップを踏んだ個別解説を展開する構成だ。フレックスタイム制・変形労働時間制といった人事制度の設計原則はもとより,手当改廃の判断,テレワーク時の遅刻・早退・中抜けの扱いまで目配りは抜かりなく現実対応目線で一貫している。規定・帳票類はモデルとなる雛形を読者限定でダウンロードでき,お役立ち度も抜群。また,「ICT環境整備とセキュリティ対策」の章を盛り込み,端末やネットワーク接続手段の選択肢,用意すべきICTツール,必要な「テレワークセキュリティ規定」も載せている。さらにアドバイスは,トップの意識を変えてもらう方法,抵抗勢力(中間管理職)を説得するポイントなど,デジタル化を進めるためのアナログな知恵にも及び,担当者にとってはすこぶる心強い。「原則在宅勤務」を成功させたX社の事例紹介も、推進イメージの具体的な把握を助けてくれる。

●著者:川久保皆実  ●発行:日本実業出版社/2020年12月1日
●体裁:四六版/247頁  ●定価:2,000円(税別)

テレワークの達人がやっているゆかいな働き方

 コロナを契機としたテレワーク勤務のリアルをユーモラスに編集した1冊。ビデオ会議にまつわる“あるある”を中心に,およそ生産性とは関係なさそうな149話に及ぶ考察を綴っている。語られるテーマでは画面映りに関わる諸問題が多い。上半身だけ気を使う,会議中に玄関のチャイムが鳴る,家族やペットが映り込む,役職者の発言に限ってマイクがオフになったり,画面が消えたりするといった悲喜劇のほか,発言がダブって「どうぞどうぞ」と譲り合う現象を「ダチョウ倶楽部」と表現するなどコミカルな描写が面白い。とりわけ「ルームウェアと仕事着の境界線」に至っては章を独立させ機微を追求する念の入れようだ。ただ,ビデオ会議が「メール以上,リアルな打ち合わせ以下」のちょうどいいコミュニケーションであるとか,「決まった内容を報告し合うには向いているが,うまくいっていない事案の対策を考える場合は難しい」といった真面目な指摘もある。「テレワーク黎明期の珍プレー・好プレー」(著者)に共感しながら,気軽に読みたい。

●著者:林 雄司 ●発行:青春出版社/2020年12月1日
●体裁:四六版/143頁  ●定価:1,400円(税別)

あの人はなぜ定年後も会社に来るのか

 日本人の3人に1人が60歳以上という時代にあって「定年後することがない」と孤独感にさいなまれる人々(特に男性)の増加を問題視する著者は,認知行動療法を応用した生き方のヒントを個々の読者にレクチャーする。まずは,価値観・感情,他者との関係構築のスタイルは幼少期に形成され,また自分とは何か,どこへ向かうのかというアイデンティティは青年期に確立されるという原則を確認。そのうえで,「マインドフルネス」で現在の自分の感情をモニタリングし,「セルフ・コンパッション」で自らを思いやるプロセスを経て,今一度やりたいことを見つけ,計画に落とし込むところまでを導いていく。つまり,論考の主眼は老若男女を問わず自身とどう向き合い,他者との良好な関係をいかに継続させていくかという個人の内面への働きかけにあり,書名は事象の一面をナナメに表現したレトリックにすぎない。定年後の孤独の正体が,20代以降の働き方,同僚や家族との関わり方の蓄積だとするなら,確かに中高年男性ほどヤバイと気づかされるはずだ。

●著者:中島美鈴  ●発行:NHK出版/2021年1月10日
●体裁:新書版/217頁  ●定価:850円(税別)

ザ・ラストマン

 69歳の時,7,000億円の巨大赤字を抱える日立製作所の社長を要請され,「ラストマン」になる覚悟で引き受けたという著者。その後5年間で最高益を記録するまでにV字回復を遂げた舞台裏を当事者目線で明かしている。ラストマンとは最終意思決定者を意味する造語で,最後に責任を取ろうとする意識のある人だとされる。「社内にお仲間を作って話し合いだけやっていても変化は起きない」と断じ,「自分がやるしかない」と覚悟を決めた人材を求めてやまない。社長の立場は業績を伸ばす専門職だと割り切り,稼ぐ力にこだわる合理性と行動力を強調している。記述内容では,やはりV字回復の戦略とアクションに迫力がある。窮余の策で公募増資を打ち出したが,それゆえ株価が大幅に下落。海外機関投資家から容赦のない質疑を浴びつつ,信じる幹部らと世界同時説得工作を進める緊迫の10日間はドラマのようだ。ラストマンの5つのプロセス(@分析,A予測,B戦略,C説明,D断固実行)もノウハウにあふれ,リーダー研修の事前課題にぜひ推したい1冊。

●著者:川村 隆  ●発行:KADOKAWA/2021年1月10日
●体裁:新書版/271頁  ●定価:900円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki