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書評 2021.03

警察官の出世と人事

 警察官のキャリアにつき,元警察官僚の著者が,広く詳しく平易にしかも面白く解き明かした要注目の1冊。個々の立場では「出世」の仕組みとなるのだろうが,組織構造と人の配置という観点で読み換えると本書に描かれている世界は「人事」そのものといえる。警察組織の人事関数は5つ(@階級,A職制,B専務,C実績,Dその他)。これに,公式・非公式のルールが働く。階級は民間企業の等級に,職制は係長級・課長級等のポスト,専務は専門畑に重ねると理解が早い。99%が都道府県採用で,交番勤務からスタートし,昇任試験に順次合格して階級を上げていく。ただ,現業部署の階級構成は渾然一体型であり,ピラミッド型ではない。標準コースでは,生活安全・刑事・交通・警備のいずれかの専門を決め,ギルド職人のスキルを極めていく。各部署もエース級の人材を求める一方,定員数・階級比率は決まっているので,人事パズルを組み立てる側には相当の苦労が伴う。随所に「仮」としたうえで具体的に綴られている人間関係・人事の機微も読みどころだ。

●著者:古野まほろ  ●発行:光文社/2020年12月30日
●体裁:新書版/267頁  ●定価:840円(税別)

定年入門

 会社員生活を引退した複数のシニア(男女)たちへのインタビューを通して「定年」の実相を探っていく1冊。著者は“定年のない”フリーのノンフィクション作家で,対照的な立場を振り返る心境の吐露も面白い。本書に登場するシニアの皆さんは独特のエッジが立っている。「退職したら血圧が下がった」と嬉々と語るその人が,1週間もブラブラしていると罪悪感のような気持ちを覚えるからと自力で再就職先を見つけていた。仕事はせず,図書館・ファミレスに居座る人。積極的に陶芸・カメラ・釣り・ゴルフと趣味を極める人。カルチャーセンターに通い,60歳を過ぎて突然人生が開けた人も。再雇用を選択せずきっぱり退職した女性は「金銭面でのシミュレーションをしたうえで大丈夫だと思えたから」と決断。元数学教師の男性は「定年直後が資産のピーク」と試算し,65歳で施設入居を決めている(80歳では資金不足で入居できないと確信)。国や企業が進める「定年延長」とは別次元で,個々の人生を各自が引き受ける“覚悟”が伝わってくる。

●著者:橋秀実  ●発行:ポプラ社/2021年1月6日
●体裁:新書版/311頁  ●定価:960円(税別)

リーダーとは「言葉」である

 右ページに「名言」,左ページにその解説という見開き構成で,世界の名リーダー(政治家・アスリート・経営者ら)77人の言葉を編集した1冊。1「生き方の指針」, 2「弱さを自信に変える」, 3「人を認め,導く」,4「失敗を次につなげる」, 5「不安を力にする」, 6「壁を乗り越える」, 7「未来に希望を見いだす」という計7章に区分けされ,定番の人物では,マザーテレサ,J.F.ケネディ,S.ジョブズ,P.F.ドラッカー,田中角栄等が並ぶ。古くは,武田信玄,坂本龍馬にさかのぼり,新しくは,ザッカーバーグ,小泉進次郎まで,また,異色の人物では勝新太郎,似鳥明雄,北野武などの名言も取り上げている。今は作家・僧侶として洞察を怠らない著者は,元々週刊誌記者だったという。ゆえに自ら接した対象者についてはちょっとした裏話も披露している。「体験によって濾過された“魂の言葉”」は普遍性を備え,環境変数の大きい今の時代によく刺さる。安定してアウトプットを出し続ける基礎=メンタルの強化にも,一読の効果はありそうだ。

●著者:向谷匡史  ●発行:青春出版社/2021年1月15日
●体裁:新書版/189頁  ●定価:900円(税別)

なぜ職場では理不尽なことが起こるのか?

 バブル期少し前の日系企業を振り出しに,外資を含む様々な職場を経験してきた著者は,“上司との相性”に焦点を当て,しばし職業人生の来し方・行く末に思いを巡らせる。さらに実質的な人事権は人事部ではなく直属の上司にあるとの因果律を見つけ,相性の悪い上司と組んでしまった場合のサバイバル術を前半にまとめている。ただ,表層的なテクニックを読者にレクチャーするのが本書の趣旨ではないようで,後半では,生き方の自問自答プロセスに重ねてライフキャリアプランの形成にアドバイスのウェイトを移している。すなわち,定年に関わらず,人それぞれ遅かれ早かれ組織から離れるときは来るとマクロで捉え,その先,何をして生きていくかはそれまで蓄積した経験に基づく“ひらめき”を待とう,と諭す。組織から解放されてやりたいことを実行する期間「ゴールデンステージ」は「自己を再発見し,自立して,自由に活動する」3つの「自」がポイントになるとまとめたうえで,あとは自己責任で楽しんではどうかと誘っている。

●著者:中山てつや  ●発行:幻冬舎メディアコンサルティング/2021年1月27日
●体裁:新書版/186頁  ●定価:800円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki