*

HRM Magazine

人事担当者のためのウェブマガジン | Human Resource Management Magazine
HOME
 HR BOOKs
  

書評 2023.07

職場問題グレーゾーンのトリセツ

 社労士の著者が様々な職場で見聞きしてきた相談案件をQ&A形式で解説していく働く人のための防衛ガイド。「就業規則・社内ルール」「労働時間と休暇」「ケガ・病気」「ハラスメント・人間関係」「賃金・福利厚生」「異動・退職・キャリア」の6章,計75テーマの相談とアドバイスがまとめられている。遅刻・欠勤,有休,残業といった旧来からある労務トラブルに加え,SNS,副業,スマホ利用,テレワーク,各種ハラスメントなど最近の問題も多く取り上げられていて興味深い。例えば,SNSに職場の写真をアップしたら懲戒処分を受けたという場合,SNSへアップする行為がコンプライアンス上かなりきわどく,懲戒処分は妥当だとの解釈が示されている。勤労者側のスタンスとはいえワガママを肯定するわけではなく,違法かどうかの判断根拠を挙げ,踏み外さないための記述で一貫しているので,経営・人事の読者の知識整理にも役立ちそうだ。著者自身は,問題を未然に防ぐための武器として手元に置いていただきたいと自薦している。

●著者:村井真子  ●発行:アルク
●発行日:2023年5月19日  ●体裁:四六版/216頁

絶対成果の出るオドロキの社員研修

 人材育成コンサルティングを手がける著者は,これまで蓄積してきた実績をベースに,研修の成果を最大化するポイントを本書に綴っている。いかに無駄な研修を回避するかを力説し,目的が不明確なまま外部に丸投げするパターンが最も危ないと警戒。研修計画では「目的=>テーマ=>スタイル=>委託先の選定」というプロセスが重要だと諭す。全体的に企業経営の視点で人材育成を捉え,研修への向き合い方にウェイトを置き,特にヒューマンスキルの強化を訴求する記述は特徴的だ。リーダーのあり方では,指示命令型ではなくサーバント型に注目し,西郷隆盛をモデルに挙げて人格の重要性を強調(著者は幕末歴史好きを自認)。続けて,今の管理職には,維新で衰滅していく武士ではなく,著しい環境変化が起きても新しい時代に活躍していける姿を求め,生産性,能力,モチベーションの3つのアップデートを強く勧める。人事にとっては研修評価の着眼点,研修業者の選び方,講師の質の見極め方など,人材育成の勘所を再確認する刺激にもなりそう。

●著者:山口しのぶ  ●発行:幻冬舎メディアコンサルティング
●発行日:2023年5月19日  ●体裁:新書版/188頁

DX時代のビジネスリーダー

 工業化時代のビジネスモデルが終焉を迎え,モノ売りの発想では全く儲からなくなった現在,GAFAMに象徴されるプラットフォーマーやコンテンツプロバイダーが席巻する構造を捉えて本書は「DX時代」と定義する。その今の時代に伸びているのはオーナー社長の企業だけではないかと著者は見て,創業者たちの「ものの見方」を多元的に考察し,“価値が生まれるメカニズム”の解明を試みている。古くは井深大,松下幸之助,本田宗一郎の起こしたパラダイムシフトのポイントを探る。直近では,イーロン・マスクの打ち出す「ビジョン」に着目し,かつて注目されたHPやGEの「ウェイ」との違いを解説している。また,比較分析という点ではニトリと大塚家具の差を整理する記述も面白い。DX時代のリーダーは傾聴力やコーチングスキルでは足らず,確固たる思想を見出し,リスクを果敢に取り,バリューチェーンのスクラップアンドビルドを仕掛け,ナンバーワンを狙う姿が求められると語り,最終章ではゼロから1を生み出せる人材の育成策にも踏み込んでいる。

●著者:高野研一  ●発行:経団連出版
●発行日:2023年5月20日  ●体裁:四六版/149頁

あの新入社員はなぜ歓迎会に参加しないのか

 イマドキの若手の特徴につき,改めて「XYZ」の定義から説き起こしていく世代論だ。「ゆとり」と「絶対評価」の教育システムで育ち,競争より共闘・協力の価値観を重視するZ世代には,経済の衰退しか知らず,東日本大震災を経験し,コロナ禍を生き抜いてきた事情があると著者は読み解く。また,SDGsへの関心が高く「社会のウェルビーイングへ貢献したい」と願う心理に着目して,消費行動や思考特性への影響を考察している。Z世代は激しい社会変化(VUCA)を身近に見てきたゆえに画一的なキャリアレールを信じず,多様性を当たり前に受け入れているという。従って,べき論の押しつけはハラスメントになりかねないとマネジメントリスクも指摘する。コロナ禍での社会行動,ワークライフバランス,労働コンプライアンス,コストパフォーマンス等を重視する世代の心情が理解できると,書名の「歓迎会に参加しない」理由も分かってくる。「有意義な話なら酒の席ではなく仕事中にご教示いただきたい」と返されては確かにぐうの音も出ない。

●著者:廣P 涼  ●発行:金融財政事情研究会
●発行日:2023年6月14日  ●体裁:四六版/189頁

HRM Magazine.

【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki