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書評 2023.08

会社のなかの「仕事」社会のなかの「仕事」

 「組織人」と「職業人」の違いを多元的に考察する大学教員の手による論考だ。先行研究を縦覧する学術寄りのスタイルをとりつつも,章によっては個人の事情を開陳したり,サブカル作品を評価したりするなど,幅のある記述があって興味深い。真面目なところでは,「やりがい搾取」の問題を第一に挙げる。職業の社会的役割が不明確なままだと無限定なお客様ファーストに陥るリスクがあるとして,「お客様は神様ではない」という社会的な合意があるべきだと語る。著者個人の側面からは,組織人と職業人のバランスについての悩みを打ち明ける。学務に追われると研究を怠けた状態に,研究を優先すると学務を怠けていると見なされると相対化したうえで,「怠けは悪いことなのか」と問う。文化面では池井戸作品(『半沢直樹』等)を俎上に載せ,会社員と職人の対比から職業観を探る。また,4コマ漫画『かりあげクン』を取り上げ,職場での「茶化し」「ズラし」の機微を分析し,組織の安定性に左右されずに軽やかに生きるヒントになりうると論じている。

●著者:阿部真大  ●発行:光文社
●発行日:2023年4月30日  ●体裁:新書版/219頁

50歳からの学び直し入門

 『週刊東洋経済』の特集企画「学び直し全ガイド」をベースに加筆・改編して書籍にまとめられた1冊。冒頭では,国や企業に頼らず自らのスキルを引き上げ,仕事・生活環境を見直す必要を訴求し,特に画一的な教育を受けてきた50代以降の読者がメインターゲットになると編集意図を明かしている。構成は,第1章「リスキリング」,第2章「リカレント」,第3章「学び直しのための基礎知識」とシンプルだ。リスキリングとリカレントを厳密に線引きするわけでもなく,様々な分野の“当事者”たちが個人的な体験,担当領域のスキルやキャリアに関する周辺事情を寄稿,あるは取材に応じる形で活字にしている。MBAをはじめ資格取得,語学学習,大学院・専門スクールへの通学という学び直しの手段のほか,統計学入門,エクセル操作,ブログのすすめなどスキルそのものの解説,あるいは歴史や数学の魅力等までも語られる。読者としては,会社員人生以外にも活動の余地はまだまだありそうだと気づきを得て視野を広げるきっかけになるかもしれない。

●編者:週刊東洋経済編集部  ●発行:集英社インターナショナル
●発行日:2023年6月12日  ●体裁:新書版/175頁

キャリア弱者の成長戦略

 キャリア・立場を一言で説明するのが難しい多種多様な経験を積み上げてきた著者が,日本企業で働くミドルに向けて一歩踏み出すアクションを訴える。既存事業・組織の先細りは自明であり,今の仕事に甘んじる限り出世はできず仕事の難度は高まるだけだろうとミドルに対して危機を説く。対して起業のハードルはかつてより低く,アイデアと行動次第で世界に人脈が広がり,資金も集まると可能性を語る(ただし異業種交流会で名刺を配り,飲食をともにしただけでは人脈は作れず,お互いのビジネスに伴走する機会が重要だとも言い添える)。働き方を「労働者型」「地主型」「事業家型」「貴族型」に分類したり,個人のキャリア資産をバランスシートで例示したりと,オリジナリティあふれる記述は刺激的だ。実行すれば新しい景色が見えるとされる「23の成長戦略」では,SNSでの情報発信,資格・肩書きの断捨離,本屋へ足を運ぶといった行動を個人に誘いかける一方,人事には,転職・休職・副業・出戻りのいずれも身近な選択肢であるべきだと提案している。

●著者:間中健介  ●発行:新潮社
●発行日:2023年6月20日  ●体裁:新書版/189頁

小さな会社の「採用・育成・定着」の教科書

 「中小企業は人が採れない,定着しない」という課題の本質は,必ずしも知名度や給与水準ではないと採用・定着コンサルタントの著者は語る。採用媒体に任せきり,過去の求人原稿を使い回しといった無計画な取り組みに問題があると指摘し,時代に即した戦略的・計画的な運用法を解説している。ただし,順番としては「求める人材像」の策定を最優先し,ここが固まれば必要な打ち手も見えてくると強調する。戦略的・計画的なアプローチの具体例では自社のハイパフォーマーに共通するコンピテンシーの洗い出しや,スキル・マインドのMust・Want・Negativeの整理に踏み込む。また,面接官の役割では「見極め」と「動機付け」の2点に絞り,評価基準と評価項目を定めて臨む「構造化面接」による掘り下げを紹介する。さらに,定着に影響する育成の進め方では,場当たりOJTを戒め,業務を定義し,育成スケジュールを作成し,到達ゴールを設定する教育計画の全社での共有を提案する。各種スケジュール表のサンプルも充実していて資料性の高い1冊だ。

●著者:大園羅文  ●発行:日本実業出版社
●発行日:2023年7月1日  ●体裁:四六版/247頁

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki