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書評 2023.09

2023年版 日本の労働経済事情

 雇用情勢,労働時間,賃金動向から労働法制,人事制度,労使関係,社会保険まで,A4版1ページに1テーマの構成でまとめられたビジュアル要素も充実の資料集だ。労基法の総則といった基礎知識のほか,最低賃金,外国人技能実習制度,労働者派遣法,次世代育成支援対策推進法の延長など細かいところも網羅されている。およそ人事・労務の職にある方なら当然に視界に入っているはずの諸課題が並んでいるが,「結局どういうことだっけ」と具体的に正確に知りたいときに, 1ページで理解できる利便性はありがたい。また,エンゲージメントの向上,副業・兼業,テレワーク,人的資本開示,治療と仕事の両立支援など新しいトレンドワードは特に「重要テーマ」と位置づけられ対処方針やガイドラインが盛り込まれている。資料要素としては「36協定届」の記載例,「労働条件通知書」のモデル帳票が参考になりそう。人事職務の守備範囲の確認,法令対応やマネジメントの注目ポイントの共有のためにも辞典代わりに手元に1冊備えておきたい。

●著者:日本経済団体連合会事務局  ●発行:経団連出版
●発行日:2023年7月14日  ●体裁:A4版/173頁

変革せよ! 企業人事部

 パンデミックによりテレワークの普及は加速し,その影響は「働き方改革」を越えて「革命」に至ったのではないかと見立てる著者は,動向の一端を慎重に検証していく。まず,4人の企業人事担当者とのディスカッションを通じて,現状を確認。テレワークの拡大を機にジョブ型が検討され,報酬体系の変更が迫られる必然性を浮き彫りにする。また,勤務する時間・場所の垣根が低くなると,部署・会社の枠を超えた連携が可能になり,その先に副業が導かれるとも読み解く。一方で,現物を前にしてメンバー間で意見を出し合う“現場の力”は,出社とテレワークが混在するハイブリッド勤務では限界があるとも認める。別章では,駐在員妻たちへのインタビューから,夫の帯同者という立場と課税,話題先行に留まる越境テレワークの現実,キャリアブランクがもたらすデメリットといった諸問題を顕在化させている。テレワークの普及によって転勤の必要性は薄れ,そのことは企業の人事権に影響するとも指摘し,最終章では人事部門の役割を考察している。

●著者:白木三秀  ●発行:早稲田大学出版部
●発行日:2023年7月31日  ●体裁:新書版/217頁

世界の先人たちに学ぶ次世代リーダー脳

 日本IBMを経て,アップル・ジャパンの代表を務めた著者がリーダー向けのメッセージを綴る。「仕事への情熱」「コミュニケーション」「マネジメント」「思考・直感」の4章・計49話のトピックを盛り込み,いずれも「先人たちの名言」を示したうえで,仕事に向き合う心構えやノウハウを語る編成だ。その先人たちとは,古くは,アリストテレス,孔子,曹操までさかのぼる。リンカーン,チャーチル,ガンジーといった政治家の名言,D.カーネギー,P.F.ドラッカーなどのおなじみの経営哲学,日本人では,本田宗一郎,松下幸之助,盛田昭夫,あるいは,岡本太郎,坂本龍馬まで縦横な題材に着目している。とりわけ,著者が身近に接してきたというS.ジョブズの言動については詳しい。時間を切り売りするサラリーマン・ウーマンではなく,プロの対価を意識し,「会社にいる時間」ではなく「出した成果」こそが重要だと改めて確認,「24時間仕事のことで頭をいっぱいにしよう」と熱意あふれる哲学を説く。人生と仕事を考えるヒントが満載だ。

●著者:山元賢治  ●発行:日刊現代
●発行日:2023年8月2日  ●体裁:四六版/220頁

江戸の格付事情

 『江戸の給与明細』に続くシリーズ企画。乱世ではなく社会が安定していた江戸時代に着目したところが,現代の様相と少し重なり興味を引く。江戸時代は基本的に固定化された身分制度だったが(その点では格差社会),個別で見ると柔軟な上下移動もあったと本書は明かす。御家人が能力を発揮して上級職に就けば,職格に相応しい旗本に格上げされるケース(一種の等級処遇)もあったとされる。あるいは,旗本・御家人に仕える用人の場合は,功績が評判となって他家へ引き抜かれたり(ヘッドハンティング),豪農・豪商が御家人株・旗本株を買ったりする事例も見られたと解説している。武士以外では,公家,医師,学者,絵師,役者,力士,商家,遊女,職人,火消しといった専門職の事情も取り上げる。また,当時流行した「見立番付」といわれる刷り物(出版物)を資料に,相撲番付に模した様々な分野のランキングを分析。大名・幕臣から町人まで,各分野の組織的特徴と同時に,秩序の仕組みとそれを維持する運用の知恵が垣間見られ,勉強になる。

●監修:安藤優一郎  ●発行:エムディエヌコーポレーション
●発行日:2023年8月11日  ●体裁:新書版/191頁

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki