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書評 2024.01

小さな会社の「仕組み化」はなぜやりきれないのか

 仕事を“仕組み化”して,自分が直接関与しなくても会社が回る状態を作ればいいと分かっていながら,それができずに実務に忙殺される経営者を救う1冊。ただし,作業効率化のテクニック論ではなく,「社員の成長」という土台作りに立ち返り,人事考課制度の策定と運用に主眼を置いた解説が特徴的だ。ビジョンがなければ仕組みを作っても空回りするだけだと指摘し,組織図も肩書もビジョン実現のためにあるはずだと述べ,経営と人事制度の一貫性を求める。人を育てるという主旨から「成長考課制度」と名付けた人事評価制度の構築を提案し,組織図・現状分析・考課一覧・賃金テーブル・考課ルール・運用の各ポイントをステップ別に開示。仕組み作りでは全社員を巻き込む重要性に加え,経営計画や賃金表の策定などは社労士・税理士をうまく活用してはどうかとアドバイスを添えている。成長支援の実効を得るために半期に1 度ではなく1ヵ月に1回程度の面談を推奨するなど,ほぼ「社員と企業を成長させる人事制度のすすめ」といっていい内容だ。

●著者:小川 実  ●発行:アスコム
●発行日:2023年11月2日  ●体裁:四六版/256頁

日本の会社員はなぜ「やる気」を失ったのか

 著者は1990年代から『日経ビジネス』『日経ビジネスアソシエ』の編集に関わり,企業動向を注視してきたジャーナリスト。本書では,失われた30年を招いた経営者たちの選択を検証し,勤労者がやる気を失ってしまった構造の解明を試みている。独創的な商品開発ができずに国際競争力を失いつつあった時期にバブル崩壊,金融危機に直面し,雇用・設備・債務の削減に励み,リーマンショックでは派遣切りに至るまで「縮み経営」を強固に進めたことが誤りだったと指摘。あのときコストカットではなく,人材・設備・研究開発への投資を復活させていたら……と悔しさと歯がゆさを漏らす。主な問題点では,@減点主義の脅しの経営,A合理化,リストラを進めるコストカッター型経営,B無駄な会議,過剰な報告,無意味な書類などのマイクロマネジメント等を挙げ,労働生産性の低さは社員のせいではないと力説する。会社への改善提案を整理したうえで,それが報われない場合,勤労者の側には転職・副業・起業というキャリアチェンジもありだと誘っている。

●著者:渋谷和宏  ●発行:平凡社
●発行日:2023年11月15日  ●体裁:新書版/181頁

なぜ「若手を育てる」のは今,こんなに難しいのか

 価値観が個別的で多様化し,世代の括りが成立しない今,一人ひとりの社会人をどう育てるかが論点になると著者は語る。職場環境に目を転じれば,労働時間は減少,休暇取得率は向上,管理職は部下をほめ,叱責もしない“ゆるい職場”が形成されていると概観する。ここまで負荷は低いのに若者の離職率が下がらない要因では「不満はないが,成長できない不安」が疑われると見て,「キャリア安全性」という解決策のヒントを導き出している。不安の構造を,@時間(このままいても),A市場(他社で通用しないのではないか),B比較(友人・知人に比べて自分は)という3つの視座から考察。時代を戻せない以上は新しい育て方が求められると論じ,「質的負荷の高い仕事を,いかに量的負荷,関係負荷なく与えるか」と概念化したうえで5つのポイントを示す。一方で,優秀な人材が辞めてしまうのはやむをえない現象だとも捉え,“関係社員”という立場でコミットする「ハイパーメンバーシップ型雇用」を提唱する。このユニークな組織論も要注目だ。

●著者:古屋星斗  ●発行:日経BP/日本経済新聞出版
●発行日:2023年11月24日  ●体裁:四六版/287頁

総務担当者のための介護休業の実務がわかる本

 手厚い制度が整っている大企業はともかく,普通の会社で従業員から「親の介護の件で……」と相談されたら,経営者・労務担当者は焦るのではないだろうか。本書は,介護休業・介護休暇制度の準備と運用を社労士の著者が優しくレクチャーしてくれる1冊だ。まずは担当者レベルでの理解,そして管理職・従業員への説明がいつでもできる状態を目指して編集されている。そもそも介護休業は,従業員が直接介護に従事するのではなく,サービス・施設への依頼など準備のための時間だと主旨を確認。続けて,休業・休暇のほか時間外労働制限,短時間勤務など選択の幅があること,休業期間中は原則無給でも社会保険の納付は必要,対象者は同居・扶養に限らないといった注意点を詳述している。また,管理者向けには,対象者が休業中は業務の依頼ができないといった留意事項も盛り込んでいる。掲載されたモデル規程,申請書等の帳票(doc/docx)および社内配布用のビジュアルな「手引き」(pptx)をダウンロードして活用できる点も読者にはありがたい。

●著者:宮武貴美  ●発行:日本実業出版社
●発行日:2023年12月1日  ●体裁:四六版/207頁

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki