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書評 2024.02

人事変革ストーリー

 均等法施行前に自ら“気づき”を得て官庁勤務を選択。その後,MBA留学,外資系コンサルティング,外資系企業,そして日本企業と長くHR領域に関わってきたキャリアを振り返りながら著者は戦略人事のリアルを語る。企業人事では製薬会社を中心に,タレントマネジメント,ダイバーシティ,サクセッション,エンゲージメントといった最前線の取り組みを進めてきた。時に外資系本社の人事方針と,日本法人の雇用慣行の間で板挟みになり,ローパフォーマー対策,M&A人事,研究所閉鎖といったリストラ案件も担当したと打ち明ける。その後は,“日本人男性中心主義からの脱却”を掲げる日本企業の人事チームで「適所適財」へのダイナミックなパラダイムシフトを担う。「今後の人事はどうあるべきか」の章ではCHROの職務を問い直し,CoE(本社人事)とHRBP(現場人事)の分離による運営を提案している。学説紹介とは距離を置き,体験ベースかつカジュアルなタッチで記述されていく当事者による人事変革ストーリーが,人事部の読者にぴったり刺さりそう。

●著者:倉千春  ●発行:光文社
●発行日:2023年10月30日  ●体裁:新書版/251頁

世帯年収1000万円

 「平均年収400万円の時代に年収1000万円はぜいたくなのか?」と問いを立て,ファイナンシャルプランナーの著者が該当世帯の家計を探る。主に,住宅・教育・生活費の3つの支出項目に着目し,残酷な真実(本書副題)を浮き彫りにしていく。住宅では,物件価格が上昇する一方で組めるローンは限られると指摘。教育費では,大学進学まで子供1人に1000万円はかかると試算し,公的支援はあっても年収基準で対象外に置かれ,かえって負荷が集中すると分析する。生活費では,共働きゆえにシッター代,家事代行,家電コストなどで膨らむ負担を算出している。興味深いのは『クレヨンしんちゃん』『サザエさん』『ちびまる子ちゃん』の家庭をモデルにしたシミュレーションの展開だ。ひろしとみさえが共働きだったら,イクラちゃんがお受験でタイ子さんがパートに出たら,まる子とお姉ちゃんが奨学金を借りたら,と計算する試みは面白い。年収1000万円世帯とはいえ,教育負担を乗り切ったら老後が成り立たなくなるケースもあり,楽観はできそうもない。

●著者:加藤梨里  ●発行:新潮社
●発行日:2023年1月20日  ●体裁:新書版/215頁

「AIクソ上司」の脅威

 自動車産業に象徴されるようにAIは世界を変えつつあり,今後,日本の社会も大きな影響を受けると本書は予測する。今はおもちゃのようにChatGPTを面白がっていても,2030年頃にはホワイトカラーの強力なアシスタント機能を担うとされる。ただ,AIが人間を支配するとか,AIに仕事を奪われるという捉え方は誤解だとも強調する。勤労者にとって(あるいは中長期的に日本経済にとって)脅威となる存在は,AIというパワードスーツを得た(それまで凡庸だった)上司だと指摘。AI自体は意思を持たず,それを使いこなす上司が,自分にとって有利な状況を定義し,対立相手を隙なく言い負かし,自分にとって都合のいいリストラを進める危険な「AIクソ上司」になると警告する。近いうちに世界は,決断力の傑出したイカれた天才経営者たち「イーロン・マスク軍団」と,関係者とのすり合わせを好み既得権益を隙なく固める「AIクソ上司軍団」との最終決戦に至ると予言している。果たしてその結末は? そして,我々はどこを向いていかに生き延びるべきなのか?

●著者:鈴木貴博  ●発行:PHP研究所
●発行日:2023年12月28日  ●体裁:新書版/307頁

働かないニッポン

 働き方改革が進んでも,国際比較では依然長時間労働の日本の勤労者たちは,自虐気味に「働かされている」と茶化す。その日本で,不祥事・事故・重大トラブルが絶えない現象を捉えて著者は,上層部の怠慢と勤労者の「有意味感の欠如」を疑う。まず,社会構造の面では,「できれば働きたくない」「チャレンジより平穏無事」という価値観を重視する若者の傾向から,好奇心の低さを問題視し,大学教育の役割や職場での上司の向き合い方に再考の余地を指摘。続いて「中高年」の課題に分け入り,「働かないおじさん」を生み出したのは誰か,本当に働いていないのは誰かと問い,組織内権力を保身のために使う「ジジイ」の存在および「ジジイの壁」を追及している。その先に,ジジイからの逃走に成功した事例を引き合いに,「労働」を止めて「働く」ための処方を模索。有意味感・把握可能感・処理可能感の3つの関係性への着眼から半径3メートル以内の働きかけを導き,有意味感を強くするための6ヵ条をまとめている。ともあれジジイには要注意ということらしい。

●著者:河合 薫  ●発行:日経BP /日本経済新聞出版
●発行日:2024年1月10日  ●体裁:新書版/213頁

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki