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書評 2024.04

企業ではたらく20人の女性リーダー

 著名企業20社で働く女性リーダーたち20人へのインタビューを編集した1冊。男性の多い理工系分野で活躍するプロフェッショナル,および管理者・役員等の立場でリーダーシップを発揮する個々人のキャリアの軌跡と就労意識がざっくばらんな語り口でトレースされていて興味深い。「女性初」だからと注目を浴びたり「女の子」扱いされたりするモヤモヤを乗り越え,転機となるプロジェクト経験,留学・学習機会,ライフイベント,ジェンダーギャップやアンコンシャスバイアスの捉え方など等身大の思いや“空気感”が引き出されているので,現役の読者はロールモデルの存在を疑似的に実感できるかもしれない。いずれのケースも,周囲の人たちとの関わり,気づきの機会,自分なりのリーダーシップスタイルの確立などがキャリア開拓のカギになっている。あり方は「20人20色」とされながらも最終章には10の共通項とキャリアを切り開く4つの要素が整理されているので,活躍支援策を担当する人事スタッフにとっても関心の高い内容だろう。

●著者:wiwiw  ●発行:経団連出版
●発行日:2024年1月19日  ●体裁:四六版/195頁

世界は経営でできている

 学者の手による「経営学ガイド」かと思ってページをめくると,読者の脳内は激しくざわつくはずだ。そしてこの本は風刺にあふれた哲学エッセイなのだとジャンルが分かれば内容理解は一気に加速する。この語り口を著者自身は「令和冷笑体」と定義づけている(「昭和軽薄体」を意識したジョーク)。15のテーマ(貧乏・家庭・恋愛・勉強・虚栄・心労・就活・仕事・憤怒・健康・孤独・老後・芸術・科学・歴史)を扱い,様々な事象に内在する目的と手段の倒錯をえぐり出していく。例えば,顧客のいない「仕事」は無意味な作業ないし運動にとどまり「エクセル開閉体操」に過ぎないと表現する。ただ,皮肉を語る背景には,機能すべき経営が失われている状態への危機感があり,その思いは真摯かつ熱量も高い。15のお題と細目にちりばめられた数々のパロディにどこまで気づき笑えるか,読者を試す文芸的たくらみも十分の問題作。「経営学は文学の力を借りないと進歩できない」と,ぶっ飛んだ企画に挑んだ動機を最後に打ち明けている。

●著者:岩尾俊兵  ●発行:講談社
●発行日:2024年1月20日  ●体裁:新書版/217頁

目標達成できる組織のつくり方

 上から降りてきた数字を部下に課していくノルマ型の反省から導き出した経営ノウハウをコンサルタントの著者が指南する。原点には,JALの破綻時に稲盛イズムに接し,IT部門初の女性役員としてV字回復に貢献した経験があると振り返る。「目標達成は絶対」としながらも,その目標が存在する理由をチーム内で共有していくところからスタートすべきで,目標達成をポジティブに捉え直すマインドとスキルにコツがあると語る。独自メソッド「ユニゾン経営」は,@目標づくり,Aチームづくり,B環境づくり,C自分づくりの4つのステップで構成されている。KPIをベースにストレッチ目標を設定し,コーチングとティーチングを使い分け,ほめることを意識したフィードバックを進め,事実に基づいて相対評価を実施していくという,多くのリーダーたちが断片的には理解し,部分的には実践しているはずのアクションにつき,稲盛和夫氏の教えを咀嚼しつつ体系づけている。リーダーが自信をもってチームをけん引していくための必読書に加えてもいい。

●著者:宮下律江  ●発行:現代書林
●発行日:2024年1月28日  ●体裁:四六版/189頁

日本人の賃金を上げる唯一の方法

 エコノミストによる政策分析の論考。日本の賃金が上がらない事象に対する諸説の誤解を指摘しつつ,マクロ視点での打ち手を模索している。誤解の1つは「日本はGAFAを生み出せていない」というもの。しかし,GAFAに類する産業がなくても欧州や台湾では賃金が上がっていると論証し,そもそも今の日本がアメリカに全く追いついていない現実を直視すべきだと述べ,産業技術が未成熟でキャッチアップの途上であることの自覚を求めている。誤解のもう1つは「悪い円安論」だとされる。ただ,日本は円高でも不況を経験しており,要は輸入と輸出のバランスの問題だと突き放す。翻って賃金を上げる方策では,高圧経済の効果に期待する。効率的な資本投下により新しい技術を導入し,生産性を高め,1人当たりGDPを伸ばす道筋を示し,その促進の意味で人手不足は悪くないとも語る。130万円の壁・ゾンビ企業・男女格差など不合理の正体を暴きながら,行政には護送船団式の既得権保護といった全体効率を低下させるような妨害を止めるよう提案している。

●著者:原田 泰  ●発行:PHP研究所
●発行日:2024年2月29日  ●体裁:新書版/239頁

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki





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