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書評 2024.03

図解 人的資本経営

 人的資本経営を「人と組織を健全(健康)な状態にして,企業の目的実現に最大限貢献してもらうこと」と定義づけ,自社にあったやり方を実行するためのガイドを展開していく1冊。IR資料への開示といったミクロな次元とは異なる視野を確保し,他社がまねできない人的資本の形成によって高業績がもたらされる仕組みから説き起こしている。具体化に当たっては,7つの領域(@ありたい人・組織の姿,A人の調達,B人の育成,C人の活躍,D人の維持,E人のリスク低減,F人事体制)を設定。各領域ごとに実践度診断を整理し,計50の「問い」を重ねて,読者企業のオリジナリティを優先した取り組みが導き出せる構成になっている。人材ポートフォリオ,リスキリングとアンラーニング,ジョブクラフティング,エンゲージメントのほか,HRBPの導入のコツといったテーマにも踏み込む。ほとんど「人事戦略大全」ともいえそうな圧巻のボリュームながら,記述は終始「あなたの会社では」と語りかけるスタンスで一貫しているので親しみやすく楽に読める。

●著者:岡田幸士  ●発行:ディスカバー・トゥエンティワン
●発行日:2024年1月26日  ●体裁:四六版/360頁

罰ゲーム化する管理職

 かつてと比べて管理職の負荷は増大し,今や「罰ゲーム」の様相だと語る著者は,日本中の職場で起きている「管理職罰ゲーム化」の惨状につき,データを基に解析を試み,構造を捉え,修正の処方を本書に提案する。数十年の変化では,成果主義と組織フラット化が転機になったと俯瞰する。管理職の数が減少し,メンバーとの賃金差が縮小し,多様性,パワハラ防止,年上部下への配慮のほか,働き方改革のシワ寄せが管理職にのしかかっていると現場を捉える。対して,人事・経営に向けては,管理職研修など“スキル不足を筋トレで補うような発想”は誤りだと認識ギャップを指摘。@フォロワーシップ(部下・メンバーの側の課題),Aワークシェアリング(役割定義の再考・権限移譲),Bネットワーク(管理者同士の交流機会),Cキャリア(リーダーの早期絞り込みとスペシャリストの蓄積)という4つのアプローチを挙げて,打ち手を具体的に掘り下げている。まずは,ご自身・自社の状態を把握する「罰ゲーム化兆候チェックリスト」から試したい。

●著者:小林祐児  ●発行:集英社インターナショナル
●発行日:2024年2月12日  ●体裁:新書版/253頁

ネガティブフィードバック

 上司が部下に優しく接するだけで厳しい指導ができない「ゆるブラック問題」が表面化する今,順序立てて「耳の痛い話」を進めるためのタイムリーな指南書が登場した。本書には5つのマインドセットと5つのスキルセットというテクニカルな知見が公開されているが,現実には「誰が言うか」が説得力に影響するとして日頃の信頼関係の築き方にもノウハウを盛り込んでいる。過去を指摘して「ダメだったね」と言い渡すのではなく,部下のWILL・MUST・CANの整理を通してギャップを明らかにし,人ではなく問題点にフォーカスし,自分の意思で未来に向けて「変わっていきたい」と思うように導く働きかけを解説。「感情を込めるが感情的にはならない」「面談はきれいに終わらせない」「認知不協和を意図的に作る」「期限を決めて見極める(諦める)」といったコツが過不足なくまとめられている。章を変えて「パワハラにならない伝え方」「部下から上司へのフィードバック(ボスマネジメント)」といった対策も載せ,管理者の悩みにずばり応えてくれる。

●著者:難波 猛  ●発行:アスコム
●発行日:2024年2月14日  ●体裁:四六版/328頁

組織X

 「ベストモチベーションカンパニーアワード」3年連続1位を獲得した(株)メッセホールディングスの取り組みを経営者自身が公開した1冊。創業期からの成長とその後の紆余曲折を経て,独自の理念経営に行き着くまでの物語にまず引き込まれる。続けて,タテ軸「経営=現場」×ヨコ軸「事業=組織」の4象限から導き出した「経営の4P」(理念策定・戦略策定・業績向上・人財開発)計12の原則と,「4つのC」(企業個性・目標接続・信頼構築・理念浸透)計12の原則を示し,体系化された計24のメソッドおよび制度施策の事例を紹介している。ちなみに,この24の原則は「組織Xを実現するアクションリスト」として1枚のシートに凝縮され,理解促進と同時に有益なヒントを提供してくれる。普通の会社を数年で別会社のように激変させたコツは「Why(大事なことを明らかにし)・What(やることを絞って)・How(決めた施策を繰り返す)」の3段階を愚直に徹底することだとも語る。オリジナリティあふれる「最高の組織づくりの方法論」に要注目。

●著者:宮本 茂/白木俊行  ●発行:プレジデント社
●発行日:2024年2月15日  ●体裁:四六版/192頁

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki