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書評 2026.3

わかる人的資本経営

 「人的資本経営」の課題を開示義務対応と捉えるのは本筋ではないと気づかされる。従業員の能力・スキルを引き上げ,稼働を向上させ,パフォーマンスを高める取り組みこそが本筋であり,情報開示はその後の話だと,本書は全体枠を解説している。「どの資本を」という視点ではジョブ型の仕組みが必然であり,「どこまで高めるか」という課題ではウェルビーイングに行きつくと述べる。ただ,日本の企業が一気にジョブ型の導入に切り替える難しさも指摘し,「キャリア自律」と「手挙げ文化」を先行させて“実”を機能させてしまう「ステルスジョブ型」を提案する論の運びは面白い。キャリア自律の実現手段では「社内公募」が企業の本気度を測るリトマス試験紙になると語りつつ,そのハードルも高いのなら,所属をいじらない「社内副業」からアプローチしてはどうかと誘う。学びの自律,手挙げ文化,リスキリング,心理的安全性,ウェルビーイングといったワードがすべて有機的に関連している全体像が一気に理解でき覚醒に導かれそう。

●著者:鶴光太郎  ●発行:日経BP /日本経済新聞出版
●発行日:2026年1月14日  ●体裁:新書版/272頁

君の仕事は誰のため?

 高度経済成長期から長く勤務してきたソニーでの経験を織り交ぜ,39話に及ぶエッセイをまとめた1冊。ソニーを離れた後は68歳で起業し,90歳を超える今も朝から通勤電車に乗り週5日働いていると著者は打ち明ける。自分のため・家族のため・仲間のため・社会のため,と働く理由は年代によって変わってきたと振り返り,定年後は自分のペースでいいとアドバイスを綴る。盛田昭夫氏,井深大氏とも直に話せる立場にいて,特に井深氏からは「自分のために働くな,会社のために働くな」と謎をかけられ「次の世代を豊かにするために」と諭されたと述懐する。また,定年後の働き方では,「蓄積のある自分のほうが何でも知っている」という態度では「老害」に陥るので,頭の切り替えが必要とも訴える。知力・体力が衰えてくると,勝者も敗者もなく,補い合う「共存」の価値が大きくなると語りつつ,勝つ必要はないが諦めずに粘るメンタルは大事だと言い添える。定年が近づき引退が頭をよぎる読者には,今一度襟を正したくなる読み物かもしれない。

●著者:郡山史郎  ●発行:青春出版社
●発行日:2026年2月15日  ●体裁:新書版/191頁

なぜコンプライアンス違反はなくならないのか?

 弁護士・ビジネスコーチとして広く法律相談を扱う著者が,コンプライアンス問題の核心を優しく解説する。ルールを「知っている」と「守れる」の間に生じるギャップを手掛かりに,社会心理学の知見を用いて「法」と「心」の二方向から説き起こしていく。“ルールを守る”のは最低ライン,加えて“誠実に行動する”ところまでがコンプライアンスの本筋だと述べ,「インテグリティ(誠実さ,高潔さ,真..さ)」をキーワードに挙げる。法には触れないが社会的に不適切だと感じる場面ではルールブックやマニュアルに答えはなく,インテグリティが問われる瞬間だと注意を促す。知っておきたい法律分野では,「労働法」「会社法・公益通報者保護法」「民法・独禁法・取適法」「消費者契約法・特定商取引法」「個人情報保護法・知的財産法」の概要を説明。最終章では,コンプライアンス体制を整える「10のポイント」を整理している。「ちょっとだけなら」「うちは大丈夫」「ま,いいか」という心の隙に“待った”をかける全社員に勧めたいテキストだ。

●著者:波戸岡光太  ●発行:生産性労働情報センター
●発行日:2026年2月18日  ●体裁:四六版/214頁

まとまらないチームのまとめ方

 世界を舞台にAIベンチャーを立ち上げるなどプログラム開発の現場に身を置いてきた著者たちは,文化・個性・価値観の違うメンバーをいかにまとめていくかに腐心し,たどり着いた1つの解を本書に体系づける。まず,多様性を活かしイノベーションを起こすという前提から,研修・教育で組織の価値観に矯正していくのは誤りだと語る。「時間を守らない」「指示を理解しない」「謝らない」といった齟齬も文化の違いだと捉え,常識のアンラーニングを説く。暗黙の了解ではなく言語化がカギだと認めつつ,作業すべてを言語化する困難に直面した経験から,メンバーの判断・行動基準となる「価値観」の共有に行きついたと説明する。その状態を実現する組織学習として,「4層のループ学習」(@価値観,Aパーパス,B戦略・目標,C行動)を提案。トラブルの原因を解剖し,アンラーニングのプロセスを経て,気づき,合意形成,実践へと導く方法論を詳述する。“多彩なチーム”と“雑多な集まり”の違いが氷解する歯切れのいい実践ガイドだ。

●著者:堀田創/水野貴明  ●発行:翔泳社
●発行日:2026年2月24日  ●体裁:四六版/256頁

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki