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「360度評価」を最強のツールに

鰍rDIコンサルティング 代表取締役 藤原誠司

■「360度評価」に対する“勘違い”とは?

 私は約20年前から大手人事コンサル会社において360度評価拡販のプロジェクトリーダーとして,数多くの企業へ導入支援を行ってきた。現在では,360度評価に専門特化した会社を設立し,さらに踏み込んだサービスを提供している。この間,導入に関わった企業は200社に近い。当然ながら,人事部の方々と360度評価について話をする機会が多い。そこで気がつくのは,360度評価に対する大きな勘違いである。人事部の方のみならず,人事組織系のコンサルタント,経営学の研究者でさえ,そのようなことがみられている。
 その勘違いとは「上司のマネジメントぶりや態度・姿勢を部下に評価してもらうもの」「周囲が対象者の能力を評価する仕組み」といった認識である。こうした定義が完全な間違いとは言わないが,「部下が上司の人事評価をつけるなんてありえない」といった360度評価に対する否定的な考え方に結びついてしまうのだとすれば,それは大きな誤解である。
 企業の人事担当者,そして人事組織系コンサルタントの方々まで,360度評価の本質的な意味や機能を十分に理解されていないのだとすれば,それは本当にもったいなく残念なことである。

■成功企業では「人材育成」を主目的に展開

 一方で,360度評価を有効活用されている企業の人事担当者の方は,「対象者の行動発揮状態を周囲の複数人が観察し,本人にフィードバックすることで気づきを与える仕組み」といった内容で認識されている。ここで重要なのは,「評価」ではなく「行動観察」と捉えていることである。
 「評価」というネーミングが,「人事評価」を連想させ誤解を生んでいると思われるが,実際には,200社近くの企業に導入支援してきたなかで,実施結果をダイレクトに月例給与や賞与に反映させている会社は皆無である。昇進昇格や異動配置の参考資料として活用されることはあっても,主目的は,人材育成であり,組織活性化である。

■有効活用するためのワンランク上の秘訣

 360度評価を有効活用するためには,様々な工夫を講じる必要があり,とりわけ,有効活用の秘訣は次の3点である。ここには詳しく書かないが,実は意外と知られていない深いノウハウがある。
@何を質問するのか?
 「設問」の工夫である。特に,自由記述形式の設問に工夫を講じることで,対象者を取り巻く組織状態まで明らかにできる。その結果を用いてESや組織力を高める施策への展開も可能となる。
Aどのようにフィードバックするのか?
 対象者の心理状態を踏まえた動機づけがポイントである。例えば「能力が低いのではなく,行動の発揮の仕方・伝え方が良くないだけ。このままではもったいないですよ!」と伝えるのも一案である。
Bフィードバック後,どうするのか?
 気づきを与えた後の対象者への施策も重要である。対象者の状況に応じた具体的な支援を提供することで実施効果は格段に向上し,期待以上の人材育成や組織活性化を実現できる。

■「360度評価」を活かすも殺すも使い方次第

 インターネットの普及によってオンラインで360度評価を提供するサービスも増えてきた。しかし,単に実施するだけでは期待以上の効果は生まれない。360度評価についての理解を深め,各企業の課題状況に応じた個々の工夫を講じることが重要である。360度評価は工夫して活用することで,単なる「気づき」だけではなく,実践的な人材育成や組織活性化を図れる最強のツールになる。

(月刊 人事マネジメント 2013年1月号 HR Short Message より)

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