*

HRM Magazine

人事担当者のためのウェブマガジン | Human Resource Management Magazine
HOME

「諸君、狂いたまえ!」〜リーダー育成の真意とは〜

キャンドゥー(株) 代表取締役 酒井正剛

 「諸君,狂いたまえ!」はNHK大河ドラマ『花燃ゆ』で吉田松陰が塾生の皆に呼びかける言葉だ。その呼びかけに呼応し,志士たちは至誠をもって動き出す。やがて,その行為行動は,旧来の幕藩体制を終焉させ,新時代へと向かう。「狂いたまえ!」に応えた志士(メンバー)たちによる草莽崛起(そうもうくっき)が文明開化・明治維新を導いたのだ。

■「狂える」のは基軸があるからこそ

 志士たちの何がそうさせたのであろうか? 松陰は塾生たちに「あなたの志は何か」と何度も問う。「あなたは何者か?」「何が故にこの世に生まれてきたのか?」「どんな役割を担うのか?」--言い換えると,「本当に自分が成し遂げたい長期的な展望,自分が大切にする価値観」を見つけなさい,ということである。この自分の価値観と長期的展望,すなわち「個人の基軸」を備えた者は強い。ぶれることなく,目指す方向へ全力で行動できる。自分の基軸があるから,自分らしく存在でき,心からやりたいと思うことを行動に移せる。松陰がいう「狂いたまえ!」は,個人の基軸を持った志士たちにこそ響く言葉なのだ。だから「狂える」のだ。

■個人と組織の基軸を融合させる

 現在,自分が本来持つ価値観と長期的展望を自分の言葉で表現できる人は少ない。多くの人は個人の基軸でなく「組織の基軸」に引き寄せられ自分の言葉で表現できない,行動できない場合がほとんどである。組織の基軸である理念を否定するつもりはない。組織の基軸はその組織に属する人々が共感できる大切なものである。ただ,何より重要なのは,自らの基軸との重ね合わせである。組織の基軸が一人歩きするだけではいけない。
 ビジョナリーカンパニーやGEのValues経営が発表されて以降,理念教育は日本の多くの組織や企業で行われてきたが,「個人の基軸」を育み「組織の基軸」に融合させるところまでできている企業は少ない。私たちのリーダー育成プログラムに参加したある食品会社のR&D部門の受講生は,プログラムを通じて自分の目指す方向が「不老不死の研究」であると気づき,確信した。さらにプログラムを共にする仲間からの共感や会社が持つ組織の方向性ともうまく融合させていった。個人の基軸と組織の基軸との融合が,受講生自らが持つ自分らしさの発揮と,会社のための成果創出を可能にした好例だ。

■リーダーシップとは誰もが発揮できる機能

 リーダーを育成するうえで,個人の基軸を確立させることは外せない。また組織の基軸との融合も不可欠だ。では,その先は何が必要となるのか? それは,松陰がいう「草莽崛起」である。リーダーシップを個々人が携え誰もが発揮できることである。リーダーシップはリーダーだけが持つ特権ではない。リーダーシップは組織の構成員であるメンバー(志士)たちが相互に発揮し合うことが重要である。リーダーの資質や状況に惑わされない誰もが発揮しうるリーダーシップスキルは存在する。世界で初めて“リーダー偉人説”を覆した英国のジョン・アデア氏(現国連リーダーシップ評議会会長)の考えだ。3つの対象(仕事・チーム・個人)にファンクション(機能)を作動させることがリーダーシップの本質だと説く。組織が今何をしなければならないのか不明なときは,「タスクを明確にする」という機能を使う。チームの結束が崩れそうなときは「要約する」という機能を使う。個人の成長を促すには「動機づける」という機能を使えばよい。今はリーダーもメンバーも誰もがいつでもリーダーシップを使う必要がある変化の時代だ(参考『英国超一級リーダーシップの教科書』こう書房)。

(月刊 人事マネジメント 2015年9月号 HR Short Message より)

HRM Magazine.

 
1956年、福岡県生まれ。1981年、総合商社ニチメン実業株式会社(現・双日)に入社。中国で広州、ウルムチ、北京に駐在する。1994年、キャンドゥー株式会社を設立し、人材育成事業を開始する。「Learning by Doing」というコンセプトのもと、実践型による行動学習プログラムを企業に提供し、特にリーダーシップ開発を得意とする。これまでの受講者は2万人以上。2011年、日本人で初めてジョン・アデア氏から直接指導を受け、英国アデア・インターナショナル後任ACL(Action Centred Leadership)トレーナーとなる。現在、リーダーシップの実践としてベトナムや中国で日本企業を支援している。

>> キャンドゥー株式会社
 http://www.cando-now.com