*

HRM Magazine

人事担当者のためのウェブマガジン | Human Resource Management Magazine
HOME

社内の風通しを良くするには?

(株)エトス 代表取締役/組織変革コンサルタント 門田由貴子

■よくあるご相談と思い込み

 「社内の風通しを良くしたい」「もっとイキイキした組織にしたい」「閉塞感を打ち破ってイノベーションを起こしたい」……。
 2009年に『ザ・チェンジ! 人と職場がガラリと変わる12週間プログラム』(フォレスト出版)を上梓して以来,様々な企業から「組織風土改革」「組織変革」をテーマとしたお問合せが増えている。
 多くのご相談内容を見ていくと,どうやら人事担当者に共通した「思い込み」があると気がつく。@「何か1つのこと」を実行すれば,必ず組織を変えられる,Aどのような企業にも効果的な変革ツールがある,B変革方法さえ知っていれば,誰でも同じ効果が出せる,の3点が代表的だ。それゆえ,「何をすればいいのか?」「効果的な方法を教えてほしい」というご要望につながるのだろう。

■組織変革の原則とは?

 問題視している現象が「風通しの悪さ」でも,「ギスギス」や「思考停止」であろうと,組織変革に当たっての基本的なアプローチは同じである。
 まず,企業で問題現象が起こっている背景には多種多様な要因が複雑に絡み合っていることを理解する必要がある。それは,歴代経営者の方針,組織体制,事業戦略,顧客や競合企業との関係,市場ポジション,人事制度や予算管理をはじめとした社内の諸制度,社員採用方針,社員やマネジャー向けの教育内容,社員や組織に固有のスキル,情報システムとその運用方法,会社や要素技術の歴史など。
 これらを広く調査していくと,あちこちに問題現象と密接に関連するポイントが見つかる。ゆえに,「たった1つの対策」では,組織の問題は変えられない。複合的な原因から生じている問題には,複数・複合的な対策が必要になるのだ。

■企業ごとに異なる,固有の問題

 表面的には「よくある現象」に見えても,実はその問題現象を発生させているメカニズムは,その企業や部署に特有の構造をしている。
 例えば,同じように「風通しが悪い」と訴える2社があったとしよう。詳しく分析してみたら,A社では人事制度とそれを支える人事派閥が原因と判明した。一方,B社は現在の予算管理システムとその運用ルールが原因と特定された,という具合である。当然A社とB社では,行うべき対策も別物となる。A社で成功した変革方法をB社に適用しても,全く効果は期待できない。
 組織変革の分野において,万能薬も万能ツールも存在しないのは,こういう事情がある。

■誰が対処するかで,大きな違い

 組織は,生身の人間の集合体である。機械と違って,人間は思考と感情を持つ。これが組織の問題を解決するうえで非常に厄介なものとなる。
 誰かが100人に向けてメッセージを発信すれば,その受け止め方や解釈・理解度は100人で100通りとなる。賛同する人がいれば,強硬に反発する人もいる。一部の賛同者だけを対象にしていては,組織の問題は解決できない。
 組織変革プロジェクトを円滑に効果的に進めるには,人間の思考と感情に関する専門知識や深い経験と観察眼・洞察力が求められる。同じ行動をしても,それを行う人の習熟度や能力に応じて,効果や影響は全く異なるのである。
 残念ながら,誰にでもカンタンに,組織の問題を短期間で解決できる「魔法」は存在しない。
 組織変革を進めるなら,本稿で挙げたポイントも考慮に入れて,効果的な変革プロジェクトを企画設計し,着実な効果を上げていただきたい。

(月刊 人事マネジメント 2016年5月号 HR Short Message より)

HRM Magazine.

 
組織変革コンサルタント。人と組織の問題を1時間で見抜き、劇的に業績と能力を向上させる。思考法と心理学を用いた変革指導には定評あり。大手企業とそのグループ企業を中心に、「強い組織づくり」「風土改革」「思考筋(R)トレーニング」や経営幹部研修などを数多く受託している。株式会社エトス代表取締役社長。一般社団法人キャリア・イノベーション協会代表理事。慶應義塾大学大学院修士課程修了。

>> 株式会社エトス
 http://www.ethos-net.com/