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変革を起こすリーダーの育て方

(株)チェンジウェーブ 代表 佐々木裕子

■「変革」の瞬間にはギアチェンジが起きている

 変革を起こせるリーダーが,あらゆる場所で渇望される時代を迎えています。既存のしがらみを打破し,新たな視点を提示し,多くの人を巻き込んで新しい波を作っていくリーダー。強い想い・志を持ち,その発想力・思考力・行動力で,最初の一歩を誰よりも早く踏み出せるリーダー。
 それは,必ずしも仕事がデキて,賢くて,上司からの評価が高い人ではありません。実際,私たちが経営幹部候補生の育成を手がけていても,「変革リーダー」といえる人は,格段に数が少なくなります。ベースの基礎思考力に加え,志・行動力・熱量,そして“人たらし”の能力が不可欠な変革リーダーは,そう簡単に見つからない,育たないというのが,人事の方々に共通した相場観でしょう。
 一方で,私たちは,人が極めて短時間で変革リーダーとしてブレークしていく瞬間にも数多く立ち会っています。「仕事はこなすもの」などと口にしていた30代男性が,半年後には「世界を変える」と自ら海外に飛び出していったり,「力の発揮は7割でいい,本音では主婦になりたい」などと考えていた女性が,数年で厳しくも優しい経営者に成長されたり。
 つまり,最初から変革リーダーらしく生まれてくるわけでも,少しずつ変革リーダーに育っていくわけでもなく,まるで“ガチャン”とギアチェンジしたかのように,極めて短期間にポテンシャルがブレークして,いきなり「変革リーダーとして歩き始める」ケースが多いのです。

■短期的に「圧」をかけてブレークを誘発させる

 「変革屋」を自負する私たちの仕事の1つは,人が変革リーダーにギアチェンジするスイッチを探し,それをパチンと押してあげることです。変革リーダーを育成するというより,元から持っているポテンシャルを開放し,そこに一気にガソリンを注ぎ込む,という表現のほうが正確かもしれません。
 具体的には,@自分の固定概念を外す,A「自燃」する核を再発見させる,B短期間で成功体験を積ませる,という3つの課題を同時に「圧」をかけて実現するシチュエーションを仕掛けます。
 特に重要なのは,「固定概念」を崩すこと。「組織の期待に応え,成果を出して評価を受ける」という日々の業務サイクルに慣れてしまうと,無意識のうちにも自身を既存の枠組みで定義するようになり,本来持っている自分の熱量に蓋をしてしまうのです。そこで,相当に高いハードル・責任にチャレンジさせたり,全く異なる環境・枠組みでの体験をさせたり,自身の人生に深く向き合わせたりして,意図的に日常から引きはがし,短期間に強い圧をかけて揺さぶってみるのです。そうすると,一気に蓋をこじ開けることができます。塩尻市職員とリクルート・ソフトバンクの若手幹部候補生が2泊3日で行政課題の解決施策を提案するという『MICHIKARA 〜地方創生協働リーダーシッププログラム』も,そういう意図で私たちが仕掛けた場の1つです。

■変革リーダーを輩出し続けるシンプルな要点

 では,このような仕掛けさえ組めば自動的に変革リーダーが生まれるのかというと,決してそうではありません。変革リーダーとして大きく変容された方々に「なぜ,あなたはあのとき変化したのですか?」と聞くと,必ず返ってくる答えがあります。それは,「自分のポテンシャルを強く信じてくれる人の存在があったから」というものです。
 変革を起こすリーダーを数多く育てたいなら,経営も人事も“自分たちの社員の誰しもがそうなるポテンシャルを持っている”と,心から強く信じること。一番重要な本質はそんなところにあるようです。

(月刊 人事マネジメント 2016年7月号 HR Short Message より)

HRM Magazine.

 
東京大学法学部卒、日本銀行を経て、マッキンゼーアンドカンパニー入社。シカゴオフィス勤務の後、同社アソシエイトパートナー。8年強の間、金融、小売、通信、公的機関など数多くの企業の経営変革プロジェクトに従事。マッキンゼー退職後、企業の「変革」デザイナーとしての活動を開始。2009年チェンジウェーブを創立し、変革実現のサポートや変革リーダー育成など、個人や組織、社会変革を担う。

>> 株式会社チェンジウェーブ
 http://changewave.co.jp/