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ノーレイティング時代の人事の役割とは

(有)人事・労務 チーフ人事コンサルタント・社会保険労務士 畑中義雄

■ホラクラシーに適したノーレイティング

 人事分野では今,「ノーレイティング」が注目されている。これは,企業が年度末などに実施する人事評価において,「A・B・C」といったランクづけ(レイティング)をしないという管理手法だ。日本では企業規模を問わず,多くの企業がランクづけ評価を実施しているが,欧米ではマイクロソフトやアドビシステムズなど,レイティングを廃止し,新たな人事評価を取り入れる企業が続出している。
 「ホラクラシー経営」という言葉をご存じだろうか? ホラクラシーとはヒエラルキーの反対語と解され,ヒエラルキーが中央集権型・階層型のピラミッド構造を意味するのに対し,ホラクラシーは「分散型・非階層型」のことをいう。日本で最初に本格的にホラクラシー経営を導入したといわれるダイヤモンドメディア株式会社では,「上司部下,階層がない・肩書は自分で決める・給与はみんなで決める」「社長役員は毎年選挙」「働く時間自由・働く場所自由・休み自由・命令なし」「副業,起業推奨・社内外ボーダーレス」といったことを実践し,業績を伸ばしている。このような組織では,画一的な指標(評価項目)で構成された評価シートを使って半年に1回,A・B・C……とランクづけして評価をすることはほぼ不可能である。

■人事部から仕掛けるポイントは2つある

 このような動きが拡大する前提で,企業人事部がやるべきことは,大きく2つある。
 1つ目は,「自社の実情を正確に把握し,徐々にノーレイティングに近い仕組みを検討,導入していくこと」である。ノーレイティングが有効だと理解されても,これまで何十年も続けてきた評価制度を劇的に変えるのは難しい。ある企業では,長年予算に沿って売上目標を作り,その達成度に対してA〜Eの評価づけを行ってきたが,予算にはない新しい商品開発や新規営業が必要になってきた。そこで,既存の評価を踏襲しつつ,新規プロジェクト等への参加に対しては加点評価を取り入れることにした。つまり,加点評価部分は「ノーレイティング」としたのである。具体的な評価指標は示さず「既存の役割を果たしつつ,新たな付加価値を生むなど,役割とは別の貢献があった」場合に加点評価を実施し,賞与に上乗せを行っている。このように,評価の一部にノーレイティングを組み合わせ,これまで評価しきれなかった貢献を評価する仕組みを徐々に作っていくことはできる。
 人事部がやるべき2つ目の課題は,「制度を作るのではなく,管理職を教育し,情報とツールを提供すること」である。これまでの評価シートのように画一的な指標の設定が難しくなってくると,評価は管理職の力量によるところが大きくなる。指標がないなかで部下を評価するためには,管理職自身が組織の方向性と特徴(強みと弱み,今の状況など)をしっかりと把握し,組織に貢献しているのはどの部下なのかを判断しなければならない。そのために人事部門は,「評価項目」を作るのではなく,部下とコミュニケーションをとるためのツールや,部下との面談をスムーズに行うための手法を管理職に提供するのである。多様なメンバーがいるチームにおいて画一的なルールは不要であり,例えば人事部からはリアルタイムに業務を把握できるツール(グループチャットなど)を提供し,管理職はそれを活用しながら,必要に応じて必要な部下だけに面談を実施すればよい。また,客観的な統計分析データなどから最適な方法を管理職と部下が模索してもいい。
 多様で自律したメンバーが集まる組織では,従来型の画一的なルールは弊害になりかねない。

(月刊 人事マネジメント 2018年3月号 HR Short Message より)

HRM Magazine.

 
2001年社会保険労務士試験合格。主に中小企業を中心に事業主の立場にたった経営・人事相談を行う。 特に賃金・評価制度においては、ES向上を軸にしたオリジナル人事制度構築を数多く手掛け、またIPO支援、事業譲渡や会社分割の際の労務対応なども積極的に行っている。

>> 有限会社人事・労務
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