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これからの人事をどう変えていくか

(株)レイヤーズ・コンサルティング 事業戦略事業部 マネージング・ディレクター 出崎弘史

 企業の経営者や人事部門の方々と会話をしていると,日本企業でもグローバル全体を視野に入れたダイナミックな人事施策の構築・展開が加速していると実感する。具体的には,経営人材の継続的輩出やコアポストに対する最適人材の配置をグローバル全体の施策として本気で取り組んでいる。そのための人事関連制度の統合・改定,タレントマネジメントシステム導入等の諸施策も盛んになっている。

■個々の社員の多様な価値観に応える時代

 しかし,グローバル企業に倣った仕組みの構築・導入が加速する一方で,人事として考えるべき根本・本質が抜けている気もしていた。そうしたモヤモヤ感を抱えつつ,ある経営者の方と会話をさせていただいた際に,なるほどと納得する瞬間があった。その経営者が語っていたのは,欧米企業のように特定の優秀層に投資しても,結局のところ日本企業では,社員全体(個々の社員)をどれだけ活性化させるかが鍵になる。ゆえに,企業と社員の関係性を今一度考え直す必要があるという指摘であった。
 チームの一員として会社に数値的貢献を果たし最大の対価を得ることが会社・社員双方の成功につながるというスキームだけでは,会社の将来はないということである。会社に貢献し,最大の対価を得て,ポジションを上げていくことに満足を求める社員もいるし,仕事への注力はある程度にとどめ,仕事外のコミュニティーに軸足を置こうとする社員もいる(潜在的なニーズを含めるとこちらのほうが多数)。大げさにいえば,社員の数だけ満足度指標が存在し,その多様性に応えることがこれからの企業の使命であり,その先に企業の成長・発展があることを再認識するタイミングに来ている。そういった状況で,人事部門は,社員個々がそれぞれ何を考え,重視し,会社や仕事に向き合っているのかを理解し,個々の満足度を上げていく施策を用意して企業の成長・発展に寄与することが求められている。

■人事が現場と経営に変化を促す覚悟を

 では,人事は具体的にどのように変わるべきか。まずは,これまでのような統一的な仕組み・ルールに社員個々をはめ込んでいく管理を止める必要がある。これまでは,労使のパワーバランスもあり,会社が提示する条件に社員が合わせていた。しかし,今後は,社員自らが働きやすい条件を選択できるような仕組みが求められる。報酬形態,福利厚生(サービス範囲・質)等を,社員個々の考えに合わせて調整できるような仕組みの構築が必要だと考える。
 ただし,そのような柔軟性を持たせようとすると,運用が複雑になり,負荷が増大するデメリットが発生する。そこで,次に取り組むべきことは,会社全体での人事機能の運用である。現場の管理者に「人事」を理解してもらい,柔軟性・多様性を持った人事を運用してもらうのである。日本企業の現場管理者は,業務管理はできるが人事管理(社員と向き合い,キャリア志向等を共に考え,仕事に集中させること)が苦手だとされる。現状,現場監督者が人事管理に寄与している点としては,ルール化されている定期評価のみである。この現状を打破すべく,現場管理者に人事管理に関する理解促進・実践を促す必要がある。人事施策は,社員の現場に近ければ近いほど実践効果があることを改めて認識したい。
 このような人事機能の変革は,一種のパラダイムシフトに近く,経営層と方向性を合わせ経営戦略の1つとして実行すべきものである。経営層の理解・意識改革は不可欠だとしても,人事こそが経営を牽引する機能(経営戦略≒人事戦略)を担うという気概・認識がなければ,経営層の理解・意識改革も実現できない。ぜひ,勇気を持って取り組みたい。

(月刊 人事マネジメント 2018年4月号 HR Short Message より)

HRM Magazine.

 
大手外資系コンサルティングファームを経て、現職。組織・人事コンサルティング部門において、タレントマネジメント等の人材戦略策定、人事制度設計、人事部門にかかる組織改革ならびに人事給与を中心とした業務改革(BPR)やそれに伴うシェアードサービス化・BPO化におけるコンサルティングサービスを提供。その他人事・給与システム再構築の構想策定から導入支援にも従事し、戦略策定から新業務・新システム導入における変革実行まで、トータルなコンサルティングサービスを提供。

>> (株)レイヤーズ・コンサルティング
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