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評価面談は楽しく進めてこそ

(株)エスト 代表取締役 橋宏誠

■ダメなところの是正では士気は高まらない

 人事評価では“問題志向”で行われる傾向が強く見られる。「悪いところ」を明確に指摘し改善努力を本人に求めるというやり方である。しかし,このようなやり方で行動改善というポジティブなエネルギーを生み出せるだろうか?
 本稿では,評価をポジティブに,楽しく行う方法として解決志向のコーチングを紹介したい。解決志向というのは,“原因追及”ではなく“問題が解決し成功した状態”を求めるという考え方であり,解決志向のコーチングとは,この考えに則って実施される。
 従来の評価方式では,5段階(S・A・B・C・D)のうち1つを選ぶやり方がよく実施されている。例えば,評価項目「顧客志向」の欄で「A」と評価されたとすると,上から2番目なので悪くはないはずだが,本人にしてみると「えっ,減点されたのか,がんばったのになあ」という反応となり,士気低下につながるリスクがある。この方式では,実際の期中の行動では良いときも悪いときもあったのに評価を1つに決めるしかない。その結果,例えば「B」と評価すると,常に普通以上の働きはしていないように映ってしまう。本当は「A」と「B」の中間というときも,様々な理由から低いほうの「B」評価にまとまりがちである。
 では,解決志向ではどうするのか。まず,評価を1つ選ぶのではなく,どのレベルの仕事をどのくらいしていたかという割合を100ポイントの分布で表す。例えば,「S:20・A:70・B:10」と評価する。こうすると,より実態に近い状態を表現できる。さらに,よい働きが少しでもあった場合には,高い評価の欄にポイントを記入できるので“よい働きも見ていたよ”と伝えることができ,被評価者の納得感も高まる。

■S項目にウェイトを置いて面談を展開する

 この方式の最大のメリットは,評価面談で話すべき「焦点」を与えてくれることである。話した分量に応じて人の心が染められるとすれば,増幅してほしい行動についてたくさん話すことが効果的だといえる。要は「S」のついた項目についてたくさん話をするのである。その際,「そのような高いレベルの仕事はなぜ可能だったのか?」「今後,そのような仕事を増やすにはどうしたらよいか?」等,「S」のついた項目に関して詳しく聞くことにより,そうした事情を土台として,他の項目でも高いパフォーマンスを挙げていけるよう可能性を広げて会話を展開する。そもそも「既にできていることを増やす」のと,「できていないことを何とかできるようにする」のとでは,希望の度合いが違う。
 波がある中で高パフォーマンスの仕事を増やすには,高波の部分に焦点を当てることが重要である。評価される側も,高いほうに注目されることで,それを増やそうという動機づけが働く。人間の心はたくさん話したことに反応する。だから,過去のミスについてたくさん話してネガティブになった後では,未来に向けたポジティブなアクションイメージは描きにくいものである。未来の望ましい行動を引き出すには,これまでの「望ましい行動」「未来のプラスの可能性」についてより多くの量を話すことが有効である。
 このような解決志向のコーチングを展開して評価面談を行うと,評価者も被評価者もポジティブになれる。被評価者はうまくいったことを聞かれれば,当然うれしいし,自然と笑みがこぼれ,楽しくなる。それを受けて評価者も楽しくなること請け合いである。

(月刊 人事マネジメント 2021年8月号 HR Short Message より)

HRM Magazine.

 
組織人事コンサルタント。東京大学法学部卒、ニューヨーク大学でMBA、富士通、マッキンゼー、ヘイグループ(現コーン・フェリー)等を経て独立。日本のベンチャー企業から大企業までコンサルティング経験は30年以上。英国国立ウェールズ大学MBAプログラム教授として組織・人事関連科目について社会人を指導した経験もある。2017年、東京工業大学にて組織開発の研究で博士号取得。文科省からの助成が認められ「組織開発の理論化と実証研究--自己組織化能の解放」を2021年10月に刊行予定。組織能力を原動力として企業の成長性・収益性を最大限に高める方法に基づき、(1)従業員の創造性を引き出し、1人ひとりが生き生きと働ける職場作り(組織開発)、(2)組織のダイナミズムを高める仕組み作り(キャリア開発支援を制度に取り込んだ人事制度改革)を行っている。著書に『企業価値を高める事業戦略がわかる 戦略経営バイブル』PHP研究所。

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