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社員のつながりが組織を強くする

Beatrust(株) 共同創業者 久米雅人

 「自己紹介メールを日本語と英語で送ってくれる?」外資系IT企業に転職した初日に,上司からそう言われました。当時の私は広告会社で5年勤務したのち,人生初の転職。英語が苦手だった私は翻訳ツールを駆使しながら自己紹介のメールを必死に作成しました。「はじめまして。私はこれまで5年間,テレビや新聞,雑誌やラジオ,イベントなどを提案する広告会社にいました。マスメディアについては少しだけ経験がありますが,ITでの経験は全くこれからですので,ぜひ教えてください」恐る恐る全社メーリングリストに投稿したところ,続々と返信が届きました。「Welcome!」「ぜひよろしくお願いします!」というメールに混じって「ぜひ今度1on1ミーティングをしていただけませんか?」「チーム会議にお越しいただいて,20分間プレゼンをしてもらえないでしょうか?」続々と届くメールに困惑。そんなときに上司が言った言葉は……

■自分の経験や知識が,誰かの価値になる

 「素晴らしいね!どんどん他のチームの人と話したらいいよ!」上司からの言葉は意外なものでした。当時の私は,入社直後の成果も出していない状況で他チームの会議に参加して話をするなど,恐れ多いと思っていたのです。しかし,転職先の会社はそうではありませんでした。社内で経験やスキルがある人はチームを越えてサポートし合い,困ったときは相談することが徹底して奨励されていたのです。特にマスメディア広告に関する知識は,このIT企業においては経験者が少なく,多くの人が知見のある人から教えてもらいたいと考えていたのです。この初期のできごとはとても貴重な体験となりました。
@中途入社社員のオンボーディングが最高の体験となること
Aスキル・経験がある人がチームを越えて共有することで組織全体のレベルが向上すること
B次に自分が困った際には気軽に他チームに相談できる環境なのだと実感すること
 前職との違いに驚愕しながら,どうすればこのような環境が作れるのかを自分なりに考えました。

■DXの本質は社内文化とデジタルツールの融合

 その要因は大きく2つあると考えました。1つは「オープンでフラットなカルチャー」です。自分に何ができるかを共有・公開し,チームを越えてつながる社内文化を会社が強烈に後押ししていたということ。もう1 つは「使いやすいデジタルインフラがあること」でした。その会社では社員の誰が,どこで,何をしているのかを誰でも簡単に調べられるデジタルツールがありました。それによって,誰かに聞いたりするまでもなく,自分で社内の有識者を探し当てることが簡単にできたのです。「社内文化」と「デジタルツール」,この融合が新しい仕事体験を後押しするのだということを実感しました。
 その後9年半を経て,当時の体験を色々な企業でご一緒に実現できないかと思い立ち,一念発起して起業。多くのお客様とお話するなかで感じているのはデジタルトランスフォーメーション(DX)とは「組織文化の改革」に等しいということです。デジタルの世界では誰でも簡単につながることができ,知識や知見は自分が望みさえすればすぐに手に入りやすくなっていることが最大の強みです。それを実現するためのツールは多く存在していますが,より重要な要素である「組織文化」の変革は非常に困難です。経営者のコミットメント,人事の強力な推進,現場の理解など,その道程は時間がかかりますが,それらが噛み合うことで小さくとも明らかな変化が社内に生まれます。本当のデジタルトランスフォーメーションはそこから始まるのではないでしょうか。

(月刊 人事マネジメント 2023年10月号 HR Short Message より)

HRM Magazine.

 
慶應義塾大学法学部政治学科卒業。(株)アサツー ディ・ケイを経て、2011年よりグーグル日本法人入社。デジタルマーケティングの実行支援及びスタートアップ投資やパートナーシップ業務を担当後、2020年、Beatrust を共同創業。

>> Beatrust(株)
  https://corp.beatrust.com/