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プレゼンティーイズム対策を急ごう

(株)フェアワーク 代表取締役会長/診療統括医 吉田健一

■「プレゼンティーイズム」に要注意

 私は参議院事務局を始めとした中央官庁や上場企業を中心に,これまで50団体以上の産業医を務めてきました。これらの経験のなかで,病院に行く時間がなく,「会社に出社しているものの,調子が悪い」症状を放置,または我慢しながら働いている人を多く見てきました。この状態は「プレゼンティーイズム」と呼ばれ,経済損失は国内で年間19.2兆円といわれています。「プレゼンティーイズム」の例としては,頭痛,肩や腰の痛み・花粉症・眼精疲労・不眠症・睡眠時無呼吸症候群のほか,女性特有の健康課題(PMS・更年期障害)などがあります。健康経営優良法人等の認定に必要な健康経営度調査においても,このプレゼンティーイズムは測定すべき重要指標であり,2024年度からは実績値の開示が「ホワイト500」の認定要件とされます。
 一方,すでに欠勤している状態は「アブセンティーイズム」と呼ばれます。従来,企業の健康管理はこのアブセンティーイズム,つまり病気などによる社員の欠勤の予防が中心であり,「出社はしているけれども調子が悪い」社員への対応は,つい放置されてしまいやすい課題であったといえます。

■“急な休職”が起きる前の予防が重要

 プレゼンティーイズムの延長として,社員が突然休職となってしまった場合の組織への影響は甚大です。内閣府の試算では,仮に年収600万円の社員が6ヵ月間休職した場合,同僚の残業代など必要なコストは年間約422万円にも上るとされます。こうした“びっくり休職”を予防するうえでは,欠勤までには至っていない不調=「プレゼンティーイズム」の段階で早期にケアを図ることが重要です。
 しかし,「プレゼンティーイズム」の当事者は,見た目には問題なく出社しているため,上司や同僚が早期に気づくことが困難です。そこでプレゼンティーイズムを可視化する有効施策の1つとして,従業員サーベイがあります。現在は様々なサービスが提供されていますが,選定基準としては,経産省の定める「健康投資管理会計ガイドライン」に準拠した項目が測定できるものがよいでしょう。具体的には,プレゼンティーイズムやワーク・エンゲージメント,ヘルスリテラシーなどの項目が挙げられます。こうした定量的指標のチェックに加え,フリーコメントなどの定性的指標の取得も有効です。私が顧問医を務める企業では,記名式の自由アンケートを従業員サーベイに導入したところ,「小さなSOS」がアンケートに書き込まれるようになりました。これまで人事部門で悩みや思いをすくい上げることができていなかった社員を発見でき,ケアした結果,メンタルクリニックへ紹介される社員がここ数年で激減したという実績があります。
 さらに,プレゼンティーイズムの原因となる症状は,薬の服用で軽減される可能性があるため,適切な医療機関へのリファーも有効です。例えば不眠症に対しては睡眠薬,眼精疲労に対しては目薬,月経困難症やPMSに対しては,低用量ピルが用いられます。更年期などの中年期以降の健康課題に対しては漢方薬が有効なケースもあります。今は社員の不調に対して診察から薬の処方まで対応するオンライン診療サービスがあります。これらのサービスを企業の福利厚生として導入することで,社員は会社の休み時間等のちょっとした時間に,スマホ1つで医師の診察と薬の処方を受けられるようになります。
 社員の健康問題を放置することで生じるプレゼンティーイズムは,生産性に甚大な影響を及ぼします。今一度,出社している社員が本当に「いきいき」働いているのか,見直してみてはいかがでしょう。

(月刊 人事マネジメント 2023年11月号 HR Short Message より)

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元参議院事務局産業医・年間5,000人を診察する精神科医・「働く人の健康」のプロフェッショナル

1973年4月、京都市生まれ。千葉大学医学部卒業後、千葉県精神医療センター医長・千葉県がんセンター医長(精神腫瘍科)を経て、2008年メンタルクリニック「りんかい豊洲クリニック」を開業。2拠点目となる「りんかい月島クリニック」のリワークプログラムを経て職場復帰したビジネスパーソンは1,000人以上。2010年に産業医資格取得後、参議院事務局、国交省東京航空局、大手生活雑貨メーカー等の産業医を受託。これまで産業医として携わった企業・中央官庁は約50団体にのぼり、メンタルクリニックでは精神科医として年間5千人以上を診察。2014年に提供開始したストレスチェックサービス「Fair-lead」は、国土交通省(当時約5万人)など中央官庁に導入され、これまで累計30万人が利用するサービスにまで成長。2019年に株式会社フェアワークを設立、2021年には従業員サーベイ「FairWork survey」が経済産業省後援「HRテクノロジー大賞」にて注目スタートアップ賞を受賞。2023年オンライン社内診療所「Fair-Clinic 」をリリース。

>> (株)フェアワーク
  https://fairwork.jp/