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書評 2015.08

上司と部下のためのソーシャルスキル

 本書には職場の人間関係を解決する心理学の応用例が整理されている。といっても学説論文のアプローチではなく,具体的にかみ砕いた記述に貫かれ,誰でも今日からでも使える容易な構成に配慮されている。教育研修分野ではおなじみの「傾聴」「アサーション」「コーチング」「ブレインストーミング」等を扱いつつ,解説は各手法の真意にまで深く踏み込む。例えば「傾聴」といっても黙ってうなづくだけでは不十分で,話し手の潜在的欲求が「情報の伝達」なのか「感情の共有」なのかを見極めて能動的に関わる必要があるとし,様々なアクションを紹介している。また,指示・命令・非難・説教・叱責では部下を受け身にしてしまうことから,上司にはコーチングの手法を用いて自律性を引き出すコミュニケーションを求めている。他にも,人間関係を壊さずに依頼を断る方法,相手を責めずに是正を伝える方法,当事者間の争いではなく職務の支障を話し合う人間関係トラブルの介入法など,上司・部下ともにワンランク上のスキルが学習できそうな内容だ。

●著者:相川 充/田中健吾  ●発行:サイエンス社/2015年6月25日
●体裁:四六版/291頁  ●定価:1,900円(税別)

生き延びる企業の組織存続力

 100年以上続く老舗には「よい組織」の本質があるとの仮説を立て,7社の事例を交えながら経営の秘訣を探っている。「特別なことは何もしていない」と語る老舗には,淡々と改革を積み上げてきた共通の特徴が見られるという。マーケティング理論上は成熟を超えた衰退産業にあっても,昔のネタにしがみつくのではなく,時代の変化を見て創意工夫を重ねる力を老舗は保持しているとし,その強さを,@次の代まで目配りする30年周期の視座,A組織内部での信頼関係の蓄積,Bその結果導かれるメンバーの改革意識の発揮,という好循環サイクルに見つけている。それは「打率3割」の自覚があるから常に次の手を考えるプロの余裕と,「打率2割」にすべてを賭けて自滅するアマとの違いだとも表現されている。「仕事」「メンバーの能力」「運営の仕組み」の3要素を三脚にたとえ,長さをそろえて組織の安定を図ろうとする「スリーバランスセオリー」を提唱し,そこに重ねて,社会の質的変化を捉え,組織の構造を変えて生き残っていくヒントを読み解いている。

●著者:岡部博/平松陽一  ●発行:産業能率大学出版部/2015年6月30日
●体裁:四六版/198頁  ●定価:2,000円(税別)

人事部はここを見ている!

 「昇進・昇格の基準」「給料・評価の尺度」「採用・入社の条件」「雇用・退職の境目」「リストラ・解雇の手法」の5つの切り口から,会社員に差し迫る働き方の変化をレポートした1冊。見開き1話の読みやすい構成,計118話に及ぶ豊富な題材,人事担当者の肉声で語られる本音の数々に,いやでも興味を誘われる。同期入社の7割が課長まで昇進できたかつてと異なり,今は3割しか管理職になれない狭き門の実態を捉え,各社の昇進条件から,“仕事ができて,部下育成に熱心で,周囲に敵を作らず,リスクを管理したうえで果敢に攻め,さらに英語力を備えた人材”という超人的なスペックを浮き彫りにしている。サクセッションプラン,ローテーション,多面評価等で納得感のある人事を目指しつつ,役員の横やりに苦しんだりしている人事担当者の姿には同情も禁じえない。また,自殺,不倫,横領,マルチ商法勧誘といった社内を揺るがす事件と人事部長の対応ぶりを20話にわたって紹介している最終章も,ミステリー小説に似た面白さが際立つ。

●著者:溝上憲文  ●発行:プレジデント社/2015年7月4日
●体裁:四六版/264頁  ●定価:1,500円(税別)

理系社員のトリセツ

 前半では理系人材の立ち位置や思考傾向を多面的に綴り,後半の第4章に至って「理系社員はこう使え」とアドバイスを整理している。従って本書は「トリセツ」といっても操作的な人事管理の話ではなく,“理系の性分”とでもいうべき特徴観察と,あるべき組織についての考察が中心だ。理系人材は「質量保存・エネルギー保存の法則」を前提に物事を捉えるので,ゼロサムの関係には敏感であり,全体バランスを壊すことになるカネやポストでは動機づけられにくいという。そこまでデジタルでありながら,外部からの期待感や専門分野での名誉には奮い立ち“本気度”を刺激される側面も併せもつとされる。研究開発では,突飛なアイデアを生み出す変人部下を育てる必要があり,そのためには,防波堤となる超変人の上司の存在が望ましいとも提案している。文系と理系の反目,あるいは理学系と工学系の闘い(特に予算獲得)なども興味深い注目点ながら,現実の諸課題では技術とビジネスをつなぐ機能が脆弱だと指摘し,関係者間での「協働」を訴求している。

●著者:中田 亨  ●発行:筑摩書房/2015年7月10日
●体裁:新書版/205頁  ●定価:760円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki